耳の叔母

耳の叔母

2024年5月10日

52 村田喜代子 書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)

図書館のリストで見つけて、おお、大好きな村田喜代子さんの新作!とすぐに予約。読み始めたら、何やら既視感が。短編集なんだけど、いくつかは既読のものでした。でも、読んでいない短編もあったから、よしとしよう。

村田さんはトイレ関連の短編に良いものが多い。トイレって人間生活の根源的なところにあるからね。運動会のために学校の先生たちが運動場に深い穴をいくつも掘って、その周りをトタンで囲って臨時便所にした話なんて、臨場感あふれててすごい。これ、ぎょっとして読めなくなる人もいるのかな。私はその臭気までを想像して、うえーっとなりながらも、なつかしかった。昔の公衆便所ってすごかったもん。それをありありと思い出してしまった。

バイクで友人とツーリングした話。いつもは自分が前をいくのに、珍しく友人が前を走ったら、いつの間にか姿が見えなくなって、目的地まで行っても姿が見えない。最初は自分がいつも通り先を行っているつもりでいたのに、ふっと友人が先行したことを思い出した時の背中が泡立つ感じ。これは覚えていた。前に読んだときも、スーッと目の前が暗くなるような感じがした。

「耳の叔母」という表題作も秀逸。ひょうひょうとした文章。でも、構成がすばらしい。耳という漢字からイメージが広がる。

最近は短編をあまり書けなくなったとあとがきで書いていらした。長編のほうが大変かと思ったら、そうでもないらしい。超短編は一瞬の跳躍だ、と書いていらした。そうなのか。村田喜代子さんは、素晴らしい。もっと読みたい。どうかいつまでもお元気で書き続けてください。