6斎藤美奈子 筑摩書房
引き続きの斎藤美奈子である。2015年7月から2020年7月までPR誌「ちくま」に連載した、時事に即した、今読むと良い本の紹介エッセイを加筆修正して収録したもの。コロナ前からコロナ真っただ中までの話なので、なんだか遠い昔のような、でも確実に今に続いていることが書かれている。
「バカが世の中を悪くする、とか言ってる場合じゃない」というタイトルの第一章から始まる。「日本の反知性主義」という本が取り上げられている。これ、私も読んで、なんか熱くなって三回に渡って感想を書いたのを覚えている。多くの知識人が筆を執った中、小田嶋隆が一番しっくりくる、と思っていたのだが、斎藤美奈子も同じであった。
あとがきにこう書いてある。
ネットが存在しなかったころは、自分の考えは自分一人で表明するほかなかったし、異論も反論も批判もひとりで受け止めねばならなかった。しかしSNS時代には、ツイートとリツイートという便利な手段によってあっというまに発信は拡散され、賞賛や罵倒の山が築かれる。いいかえれば、言論空間が「敵と味方」「内と外」「ホームとアウェイ」に二分され、仲間うちでしか通じない言葉だけが増殖していく。いわば思想のタコツボ化です。
左翼リベラル陣営においても、タコツボ化は急激に進行しています。なぜ野党は選挙で負け続けているのか。それは日本人が劣化したからだ。若者の意識が低いからだ。
と、もしかしてあなた、思ってません?だからダメなんですってば。リベラルが後退戦を強いられているのは、相手がバカだからではなく、こちら側に魅力がないからです。
自分はぜったい正しくて、自分以外はみんなバカ。愚かな大衆諸君に、賢い私が正しいことを教えてあげる。そんな不遜な人たちに、誰が与したいと思います?民主主義の危機をいいつのる人々のやり方は、ぜんぜん民主的じゃないんだよね。(引用は「忖度しません」斎藤美奈子より)
コミュニケーションって腹の探り合いじゃない。つまらない忖度はやめて、言いたいことは言ったほうがいい。当事者の声、本当に思っていることを言う人の声には力がある。希望は捨てないでいよう。というのが最終的な彼女の主張である。
わかる、わかるよ。人の心を打つのは、上からの言葉ではないし、誰かを敵に見立てて攻撃心や嫉妬心を煽ることでもない。本当に思っていること、本当に好きなことを心から真摯に語る言葉だ。そういうものを、私たちは本を読むことで見つけ出せるのだ。