Black Box

Black Box

7 伊藤詩織 文芸春秋

東北三泊四日の旅に出た。JR東日本内乗り放題の「大人の休日倶楽部パス」様のおかげである。温泉に浸かって食って寝て、あとはひたすら読み放題の四日間である。折悪しく寒波到来。大積雪で、新幹線事故まで起きたが、隙間をかいくぐって我々の行程は支障なく予定通りであった。ひなびた温泉宿が、ひなびすぎて超寒かったり、思いがけずに朝食のバイキングですっ転んだりはしたが(転ばないでね、と友人に念を押されていたのに・・)、全体としてよい旅であった。旅のお供にどの本を連れて行くかで大いに迷ったが、一冊目はこれ。家の中で読むと苦しくなって逃げ出してしまいそうだが、旅先だと最後まで頑張れそうな気がした。そう、大正解。つらくはあったが、最後まで読むと勇気が湧いてくるような力のある本であった。

説明する必要もない、例のレイプ事件を実名告発した伊藤詩織さんである。「世界で最も影響力のある100人」に選出された女性である。

彼女が本当に書きたかったのは、何が起きたのか、どんな酷い目にあったのかという訴えではない。

そういう意味で、この本は、すべての女性に読んでほしいし、もちろん男性にも読んでほしい。こんなひどい事件がこれから二度と起きないために。

伊藤詩織さんは聡明で勇気のある女性である。だが、彼女がここまで頑張れたのは、彼女がたまたまそういう才能を持っていたからではない。ごく普通のどこにでもいる女性と同じように、傷つき、迷い、混乱し、苦しんだ果てに一つ一つの道を選んでいったのだ。彼女は特別な人ではなく、もしかしたら私だったかもしれない、あなただったかもしれない。だから、どんなにひどい境遇に叩き落されても苦しんでも、もがきながら、自分を取り戻し、おかしいことはおかしいと、ダメなことはダメだと声をあげることは、本当は誰にだってできるはずなのだ。それを、世の中は助けるべきだし、私たちは助けたい。

レイプされたのはあなたがうかつだったからだとか、誘いに乗ったんじゃないかとか、隙を見せたお前が悪いとか、そういうことを言いたい人はこれを読め、と言いたい。レイプ犯がどんなに卑劣だったのか、それを助けようとした権力がどんなに逃げ回ったのか、よくわかるから。そして、私たちは、誰もが一人の人間として尊重されるべきだということも身にしみてわかるから。

今、ジャニーズ事務所や宝塚やお笑い界で起きている様々な問題は、すべて伊藤さんの事件と繋がっている。彼女が勇気をもって実名告発したことが、今まで泣き寝入りしてきた人たちをどれだけ勇気づけ、立ち上がる力を与えたか。それを思うと胸が熱くなる。弱いものが踏みにじられ、言いなりにさせられる時代は終わらなければならない。伊藤さんは、本当に世界に大きな影響力を与えた人である。