いとの森の家

いとの森の家

2021年7月24日

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「いとの森の家」 東直子 ポプラ社

 

東直子って名前、どこかで見たことがあるし、きっと何か作品を読んでるんだわ、と記録を確かめてみても、出てこない。おかしいな・・・と思ったら、この人、歌人でもあるのね。たぶん、短歌の方で何か作品を見たことがあるんだと思う。物語はお初でありました。
 
私とほぼ同年代なのかな。作者自身が小学生だった頃、一年間ほど住んだ福岡県糸島郡での日々が描かれた児童文学だ。
 
転校先へ向かう初日に大量のカエルの轢死体を踏みながら歩く話から始まったのにはちょっとびっくりした。私も小2まで福岡に住んでいた。泥道を歩いて登校した覚えはあるけど、カエルは踏まなかったな。雨上がりに大量のミミズはいたけれど。
 
自然豊かな場所で、そんなにうまくいくかよ、と思うほど学校でも友だちとも周囲の大人たちとも楽しく溶け込みあい、豊かな自然の中で過ごした一年間。そこには、「死刑囚の花」と呼ばれた白石ハルさんがいた。
 
ハルさんは優しくて、いろいろなものを子どもたちにくれる親切なおばさんとして登場する。可愛いもの、美しいものをたくさん作って、ときどき死刑囚に慰問に行くのだ。その事実を快く思わない大人も、いなくはない。子どもたちは、それを知って、少し動揺する。そんな中、ハルさんは、死刑囚たちの詠んだ俳句を子どもたちに教えてくれる。
 
死刑囚たちのことが特別書かれているわけでもない。ただ、ぽんと提示される俳句には、やはり力がある。明日には死刑が執行されるかもしれない死刑囚たち。その思いが込められた俳句の持つ凄み。
 
物語自体に、どれほどの力があるかはわからない。温かく優しく楽しい、ただの思い出話のようにも読めてしまうかもしれない。けれど、いくつかの俳句に出会えただけでも、この本を読んだ価値はある、と私は思った。

2015/1/7