好きになってしまいました。

好きになってしまいました。

136 三浦しをん 大和書房

三浦しをんの小説は、深く力強く素晴らしい。というのに、エッセイを読むと、この人の日常はとんでもない。それを知らされたのが、思えば「のっけから失礼します」だった。この本は、その延長線上にある。2012年から2020年まで、様々なメディアに連載したエッセイを集めた本である。

化粧品会社の会報のエッセイだから、まじめに美について書こうと思っていたのに、なぜか虫の話ばかりになるとか、VISAの会報に連載していた旅のエッセイのはずだったのに、なぜか全然旅に出ていないとか。相変わらずである。途中でコロナ禍になってしまったのでしょうがない部分もあるのだが。

でも、「活字沼でひとやすみ」という章は、本や漫画の紹介で、これは未読の本も多かったから、今後の役に立ちそうで嬉しい。「ムーミン谷の彗星」について熱く語っているのも嬉しい。ムーミンシリーズはいいよね。ときどき読み返したくなる。それにしても、この深い哲学的ですらある児童文学に、子ども時代の彼女が赤鉛筆で線を引いたのが

「一生、アイスクリームを食べられくなってもいい」

とスニフが覚悟を表明する箇所であった、というのは笑える。笑えるけど、ものすごく共感する。児童文学の印象に残る部分は、たいてい食べ物に関係しているからだ、少なくとも私の場合は。そして、その覚悟のほどがありありと伝わるという意味でも、アイスクリームを諦めるこの宣言は実に力強いと今でも思う。