想像ラジオ

想像ラジオ

2021年7月24日

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「想像ラジオ」 いとうせいこう 河出書房新社

 

実は私は耳の聞き取りがちょっとだけ悪い。検査してもそれほどの差異はないのだが、自覚としては、人よりも明らかに聞こえが悪い。たぶん、幼いころに中耳炎を繰り返して鼓膜切開を何度もしたせいだと思う。だから、よく聞こえなくて聞き返すことがある。一回ならいいが、何度も聞き返すと相手も明らかに機嫌が悪くなるし、こっちも情けなくなってくるので、適当に聞こえたふりをしてしまうことだってある。それで困ったことになるんだけどね。
 
そんな私だから、もしかしたら想像ラジオの音は逆に聞こえるかもしれない。
 
想像ラジオは、3.11後に、杉の木に引っかかったままになっている主人公がそこからしゃべっているラジオだ。ラジオがなくても、想像だけで聞こえてくる。過去t現在を行き来することもできるし、聞きたくない内容は聞かないこともできる。それが聞こえるのは、この世とあの世の合間に漂っている人だ。だけど、どうやら、時々耳の悪い人なんかにはこの世でも聞こえることがあるらしい。
 
あんなにひどい災害だったのに、私たちはもう、波にさらわれた人たちのことを、ひどい苦しみと哀しみに打ちひしがれたままの人たちのことを忘れている。国中に黒の半旗を何年も掲げていいんじゃないかという記述があったけど、そうなのかもしれない、でも、それだけでも困るんだけど・・・と考えてしまった。
 
苦しくて重い内容なのに、明るくて軽い。だけど、しんとした気持ちになる。
 
あの人達の気持ちなんて絶対にわからない、と断言して、分かった気になるなんて間違っている、と怒る人がいて。でも、気持ちに寄り添うってこともあるんじゃないか、わかるかわからないか、傲慢かそうじゃないかなんて大して大事なことじゃないかもしれない。私は私の場所で、私の立ち位置で、感じること思うことを大事にしたい。明るく軽く、でも寄り添ってあの災害を思うことって出来るんだ、と改めて思う。

2014/1/30