0.5ミリ

0.5ミリ

2022年5月17日

62安藤桃子 幻冬舎文庫

作者は映画監督で安藤サクラのお姉さんなんだって。この作品も映画化されて日本アカデミー賞やらキネマ旬報ベストテンやら報知映画賞やらブルーリボン賞やら取ってるらしい。知らなかった。ただ、一冊の文庫本、それも介護という非常に地味なテーマの本として読んだ。

主人公はまだ若い介護ヘルパー。クライアントの要望に応えて本来の仕事を逸脱する要件を請け負ったところから不幸に巻き込まれ、何もかも失う。そこから始まるさすらいのヘルパー生活。様々な場所で、独居で困っている老人に付け込んで(!)生活の場を得、日々を暮らす。そんな中での思わぬ再会、そして一人の女の子を助け出す。

人は老いる。父を亡くし、八十代にして一人暮らしデビューした母を遠方介護していてつくづくそう思う。老いは徐々にいろいろなものをそぎ落とし、失わせ、人が生きるということをあからさまに見せる。介護という仕事は、それと日々向き合うしかない。この小説には不思議な現実感がある。作者はきっと介護の現場に立ったことがある人だ。

上っ面をきれいそうに見せて生きていても、老いるごとに人はベールを剥がれていく。人格者、立派な教育者がただのスケベ爺だったり、おとなしそうなおばさんがわが子に暴力をふるったりしていたことがどんどん透けて見えてくる。それでも命はいとおしい。生きることに希望はある。そういうことだ、この本が言いたいのは。