靖国神社の緑の隊長

靖国神社の緑の隊長

2021年5月26日

34 半藤一利 幻冬舎

今年の1月にお亡くなりになった、昭和史に詳しい作家でありジャーナリストであった半藤一利氏が昨年90歳で書き上げた本である。まえがきで靖国神社について解説してある。戊辰戦争でなくなった勤王の志士のための東京招魂社が元になり、後に天皇の軍隊の戦死者を祀る靖国神社となったこと、A級戦犯合祀に昭和天皇が不快感を示され、参拝されなくなったことなどが書かれている。そして、それだけでなく、「戦争の死者」とは兵士だけでなく、市民や別の仕事で戦争に駆り出された人なども皆、犠牲者であることを指摘している。

戦争の犠牲者をどう追悼したらいいかと聞かれれば、わたくしの答えは決まっています。
日本がいつまでも平和でおだやかな国であることを、亡くなったひとたちに誓うこと。わたくしのこの考えが変わることはありません。
(引用は「靖国神社の緑の隊長」半藤一利より)

その前提に立って、この本は、戦争の中で、立派に生きた人たちのことを描いている。南の島で芝居を打って、偽物の雪を降らせた加東大介の話は私も知っていた。紙の雪が降る舞台を見て、誰もが涙したという。人は、どんな時も、文化を必要としている、心を踊らせるものがどれだけ大切なのか、をしみじみと思う。

一人ひとりの人間が、こんなにも頑張って立派に生きていたというのに、何故、あんなに愚かな戦争があったのか、何故もっと早くやめられなかったのか。それが、今現在の日本の状況と重なって見えて、なんとも重苦しい気持ちになってしまった。