61 P.L.トラヴァース 岩波少年文庫
友人の劇評ブログに触発されて、ミュージカル「メリー・ポピンズ」を見た。久方ぶりの渋谷はとんでもない場所で、へとへとになってしまったが、舞台は素晴らしかった。
ジュリー・アンドリュースの映画「メリー・ポピンズ」は、名曲ぞろいの素晴らしい出来栄えである。が、映画の中のメリー・ポピンズはいつも笑顔でやさしくて、原作の不機嫌でちょっと意地悪なメアリー・ポピンズとは別人みたいだ。それに、映画は父親であるバンクス氏の葛藤が大きなテーマになっていて、ジェーンとマイケルという子供たちが主人公というわけではなかった。だから、映画は原作とは全く別のものだと私は考えていた。一方、夫は映画「メリー・ポピンズ」の大ファンで、あれこそがメリー・ポピンズであると考えていた。そんな相反する夫婦で見にいった舞台は、どちらもそれぞれに納得できるものだった。映画の中のスタンダードナンバーがふんだんに歌われていたし、メリーやバートのフライングもとても楽しめた。とりわけバートのフライング・・壁伝いに垂直に歩いて行って、天井で真っ逆さまになって楽しげに歌う姿には圧倒された。
舞台を見て帰ってきたら、すっかり原作が読み返したくなっていた。子ども時代、あまり本を買ってもらえなかった私も一冊だけは「メアリー・ポピンズ」シリーズを持っていたはずだが、どこを探しても見つからない。例の書籍大処分に際して手放してしまったらしい。残念。というわけで、夫が図書館から借りてきた。
まず一冊読み返したのがこれである。大人になって読み返すと、忘れていたことがたくさんある。改めて気が付くこともある。ラークさんと飼い犬のアンドリューの話は、思い返せば当時の私がなぜこの本に惹かれたかがよくわかるエピソードなのだが、当時はそれと意識していなかったなあ。ラークさんという老婦人がアンドリューという飼い犬を、自分なりのやり方で猫かわいがりしていたのだが、アンドリューはある日、憤然としてそれに反旗を翻し、自分の付き合いたい友達と付き合い、自分のやりたい方法で生活することを主張する。それが聞き入れられないのなら、出ていく、と意思表示するのである、メアリーの力を借りて。ああ、これが、当時の私には、なんと小気味いい物語だったのか、今ならわかるわー、としみじみしてしまう。
メアリーとバートの交わすまなざしや気持ちの伝わり方も、今だからわかる。当時は、仲のいいお友達なのね、くらいに思っていたものなあ。笑って笑って宙に浮かんでしまうウイッグさんも、とても素敵。笑うことに飢えていたのだな、あのころの私。あこがれたなあ、笑って浮くお茶会。
あくまでもメアリーは不機嫌で、怖くて、自分勝手で、でも、だからこそ魅力的だ。そういうメアリーが私は好きだったのだ、と再確認した。まだあと三冊。読み返そうっと。わくわく。
(ちなみに。映画やミュージカルでは「メリー・ポピンズ」だが、岩波少年文庫では「メアリー・ポピンズ」である。)