アル中病棟 失踪日記2

アル中病棟 失踪日記2

2021年7月24日

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「アル中病棟 失踪日記2 吾妻ひでお イースト・プレス

 

吾妻ひでおは言わずと知れた立派なギャグ漫画家である。だが、彼は一時期、失踪し、ホームレスとなっていた。失踪後期はガス管工事人として働いたりもしていた。その経過を描いた「失踪日記」は第34回日本漫画家協会賞大賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、第10回手塚治虫文化賞マンガ大賞、第37回日本SF大会星雲賞ノンフィクション部門を受賞した大傑作である。
 
この本はその「失踪日記」の続編である。彼がアルコール依存症治療のため送った入院生活と退院後の生活を描いた漫画だ。アルコール依存症患者が病院内でどのような治療を受け、どのように処遇され、どのように回復、または後戻りしていくのかがリアルに、それでいて柔らかく、可愛く(!))描かれている。とんでもない登場人物ばかりなのに、読んでいるうちに愛情さえ湧いてくる、どこか憎めないアル中患者たちなのである。
 
おちびがこれを読んで、「アルコール依存症って怖いねえ」としみじみ言った。そうだよ、怖いんだよ。おそらく、世間の人達が思っている以上に、世の中にはアルコール依存症患者が溢れている。ただ、それを自覚し、治療しようという意思を持っていないだけの人たちが多いのだ。現実への不安や空虚感を埋めるために過剰に何かに依存する、そのひとつの現象がアルコール依存だ。治療病院を退院した患者の一年後の断酒率はわずか20%。殆どの人は再入院、もしくは死んだり行方不明になったりするという。
 
深刻な状況を描いているのに、どこかほのぼのとさえした、不思議なユーモアに包まれた本書ではあるが、今後のあずま氏がどうなっていくかはまだわからない。依存症患者は、死ぬまで飲みたい思いと戦い続けるしかないからだ。
 
中島らもが「今夜、すべてのバーで」を書いた頃は、依存症を脱却しようとしていた。だけど、結局、彼は、飲んだくれて階段を踏み外して死んでしまった。あずまさんには頑張って欲しい。
 
この本を描くのに八年の歳月をかけたという。それだけの力を持っていれば、きっと断酒し続けられる。そう信じたい。

2013/10/21