石神井書林日録

2021年7月24日

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「石神井書林日録」内堀弘 晶文社

「古本の時間」の内堀さんのエッセイ。店売りではなく、古書目録を全国に発信する古本屋である内堀さんの日々が綴られている。

石神井書林の専門は近代詩だ。そんなコアなジャンルだけでやって行けているのか・・・と不思議になるが、なるほど奥深い世界である。近代詩だけの世界から、ちゃんとこの世の歴史や人々の人生が見えてくる。本ってすごい、と改めて思う。

大正13年創刊の「ゲエ・ギムガム・プルルル・ギムゲム」という芸術前衛誌の話が何度も出てくる。これが覚えられない、と笑っていたら、期末のために西洋美術史を覚えていたおちびが、同じような呪文を私は今たくさん覚えさせられてるのに、とぼやいていた。

本好きが一人死ぬことは、ひとつの図書館が消えることだ、というようなことが書いてあった。引用しようと思ったけど、何故か見つけ出せないので、記憶で書いているのだけどね。本当にそうだな、としみじみ思った。

お母さんは、なぜ、本を読むの?とおちびに尋ねられた。楽しいからだと思うよ、と答えてから、少し考えた。

私の毎日の生活の中心は、ありふれた家事の繰り返しで出来ている。その他にも、あちこちへ出かけて行ったり、仕事をしたり、買い物をしたり、文章を書いたりもしている。でも、生きる世界は限られている。半径何kmかの範囲内だけで動いている。

でも、本を読めば宇宙にだっていける。この世のものではない別の場所にだっていける。会えるわけのない人にも会えるし、絶対にできないような経験だってできる。世界が広がる。豊かになる。だから、私は本読むのだ。

古本屋は、そんな世界の広がりの可能性が集積された場所だ。すでに誰かの人生を豊かにした本が、ある種の意思と秩序によって集められた貴重な場所だ。

そんなことを考えながら、この本を読んでいた。

2013/11/20