春や春

2021年7月24日

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「春や春」森谷明子 光文社

 

俳句甲子園という創作俳句を競う高校生の大会が題材となった青春小説である。
 
俳句甲子園は、二校ずつの対抗戦のトーナメント形式で行われる。お題に対して読んだ句の評価だけでなく、相手校の句を正しく鑑賞する鑑賞点も加算される。鑑賞は、制限時間内で相手の句への感想をのべたり質問を行い、それに答えるというディベートのような形式で行われる。
 
藤が丘女子高校というなかなか優秀な進学校の女生徒たちが、どのように俳句同好会に集まり、甲子園を目指して行ったのか、がちょっとした恋物語も交えながら描かれている。
 
亡くなった夫の母は、俳句を詠む人であった。人柄通りの、凛とした姿勢の、それでいて細やかな視線の感じられる句を詠む人だった。私も何度か誘われたのだが、結局一句も詠まずにいるうちに亡くなってしまった。頑張ったところで義母のような良い句が詠めたとは思えないが、もう少し興味を持って習っておけばよかったと改めて思ってしまった。私は大喜利をするので、大喜利と俳句は似ているところがあるように感じるからだ。
 
短い語数の中に世界を込める。そのためには、季語を信頼する、余計な言葉を排除する、語感を大事にし、目に訴える文字も選び抜く。凝縮した世界だ。そして、時として技術を超えて、約束事を超えて、人の心をうつものもある。
 
夕焼け雲でもほんたうに好きだった    (「春や春」より引用)
 
俳句っていいなあ、と思った。
 
               

2015/9/10