匠たちの名旅館

匠たちの名旅館

2021年7月24日

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「匠たちの名旅館」稲葉なおと 集英社インターナショナル

 

建築が趣味の夫が図書館から借りた本。私はそんなに建築に興味はないのだが、名旅館の写真でも眺めたら楽しかろうと手にとってみた。そうしたら、存外、面白かったのだ。
 
平田雅哉、吉村順三、村野藤吾という三人の建築家が残した旅館の歴史が描かれている。
 
平田雅哉という人は、大工の棟梁で、小学校もろくにでていないらしい。だが、素晴らしい旅館をいくつも作り上げた。建築士の資格が取れないので息子さんに取らせたらしい。学歴なんてなんぼのもんじゃ、と心から思う。大工として弟子を育て上げる腕も大したものだったそうで、平田のところから来た大工なら間違いない、と言われていたという。
 
写真しか見ないつもりが、この平田雅哉棟梁の人柄にすっかりやられてしまって、結局最後まで読み通してしまった。面白かった。
 
建築された名旅館がそのままに残されていることはあまりなく、その後、様々な要因によって手が加えられ、改築され、飾られ、切り取られていく。旅館なのだから、その経営方針や接客の在り方によって変化していくのは当然だ。それが吉と出たものもあれば、凶とでたものもある。というより、何が良くて何が悪いのかは、一概には決められない。古い伝統ある旅館だとしても、いまだに和式でウォシュレットもないトイレのままじゃ、客は泊まりたくないからね。
 
それも承知のうえで、この作者は、元の姿をできるだけとどめている旅館の写真を撮ろうとする。その美しさを写真に残そうとする。頑張りすぎて、屋根から落ちて九死に一生を得たエピソードまで載せられている。
 
私は旅行が好きだから、くつろげる旅館に憧れる。今までに、大好きだと思った旅館はいくつかあって、なんどでも行きたいと思うけれど、やっぱりお高いのよね。なんて世俗的なことも考えながら、この本を読んだ。
 
環境で人をもてなすって、大事なことだ、と思う。

2013/11/20