ハピネス

ハピネス

2021年7月24日

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「ハピネス」桐野夏生 光文社文庫

 

タワーマンションを舞台とした、うんざりするようなママ友関係のもつれを描いた作品。こんな世界となんの関連もなくて本当に良かった、と思うけれど、実は世の中にはこんな世界にどっぷり浸かった女性が大勢いるんだろうなあと思う。ぞっとするね。
 
タワーマンションはイーストとウェストじゃ眺望の良いウエストの方が身分が高いし、高層階のほうがより偉い。着ている服や髪型やアクセサリや、もちろん夫の勤め先や学歴や容姿やセンス等によって身分が決定される。女の子ママは男の子ママを蔑み、保育園を忌み嫌い、有名幼稚園受験に血道を上げる。
 
そんな中で、実は夫に離婚を迫られている主人公は、そんなことをお首にも出さずにママ友の中で遠慮がちにふるまっていてる。本当は新潟育ちだけれど、実家は町田で、夫はアメリカに単身赴任中ってことにして。そこへ、もっと庶民のマンションに住んでいながら、空気など読まず言いたいことはズバズバ言える、それでいて美人の「江東区の土屋アンナ」が入り込む。実はこのアンナちゃんが一番聡明なんだけど、ママ友の中では評判が悪い。
 
こうやって書いてみると、実にステレオタイプの登場人物が多いし、設定も、いかにもって感じなんだけど、やっぱり桐野夏生だ。力技で読ませてしまう。エンディングなど、勧善懲悪っぽいところもあって、同じような環境にいるママたちは、ちょっと反省しつつ、すっとしたりするんだろうなあ。
 
この小説に出てくる女性の大半は、自分で物を考え、価値判断することを放棄している。外的に、素晴らしいと言われそうなもの、人に評価されそうなもの、みんなに羨ましがられ、すごいと言われそうなものをどれくらい手にしているか、持っているか、が価値の全てになっている。だから、とても薄っぺらい。そんな薄っぺらさに気づいていながら、それしか知らないものだから、もっと持っていたら、こんなに薄っぺらくはないのに、としか考えられない。主人公は、そうじゃないところへ向かっているらしいのだが、でもね・・・基本は同じような気もする。
 
というわけで、非常に虚しい小説ではあったが、これって、実は世相をちゃんと反映しているってことよね。なんだかなあ、と思ってしまった。だって、最後までピューッと引っ張られて、飽きずに読んじゃったのだものね、私。

2018/11/30