我ら荒野の七重奏

我ら荒野の七重奏

2021年7月24日

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「我ら荒野の七重奏」加納朋子 集英社

「トオリヌケキンシ」以来の加納朋子さんである。夫が先に読んで、面白かった、と勧めてくれた。

我が家の二人の子どもはどちらも吹奏楽部員経験者である。上の子は今はやや距離を取っているが、下の子は、大学でも継続すると宣言している。吹奏楽って、文化系だけど、体育会系のノリなのよね・・・・。

この作品は、吹奏楽部の保護者の物語である。まさしく同じ立場にいた我々夫婦にとっては「あるある・・・」と頷きながら読める話だ。お金はかかるし、時間は取られるし、子どもはどんどん音楽に吸い取られてしまって、家族の団らんも旅行も不可能になっていくし。まあ、それでも子どもが何かに夢中になっているのは嬉しいことだし、上達していく姿を見られるのはありがたいことである。

主人公の陽子さんは、一歩間違えばいわゆるモンスターペアレントになりかねない情熱お母ちゃんだ。が、理性がそれを押しとどめ、苦労しながら吹奏楽部の保護者として成長(?)していく。知的で敏腕な編集者でもある彼女が、子どものことになると、たちまち愚かな母に成り下がってしまう姿。他人事じゃないわ・・・と胸に手を当ててしまう。

吹奏楽部員の物語じゃなくて、その母親の物語っていうのが斬新だ。というか、今までなんでなかったんだ?部活の保護者会だって、学校のPTAだって、世間じゃなんだか批判されたり馬鹿にされたりしがちだけれど、ひとつの社会だし、それなりに必要だし、その中にはいろいろな物語があるものだ。何かを生産したり、社会にはっきりと役に立つと認識されている集団・・会社とか、役所とか、学校とかで働く人と比べて、保護者会役員とかPTA役員なんて常に軽んじられるし、蔑視さえされがちだ。でも、そこにも人間の社会があって、物語がある。ってことを、当たり前だけど、ちゃんとすくい上げる小説があるんだなあ、と嬉しく思う私である。

2017/1/25