トオリヌケキンシ

トオリヌケキンシ

2021年7月24日

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「トオリヌケキンシ」加納朋子 文藝春秋

「無菌病棟より愛をこめて」で感心してしまった加納朋子の新しい作品集。この人のフィクションは初めて読んだ。闘病記と同じで、感謝と優しさに満ちた物語ばかりだった。

ただ、物語のからくりとかトリックというべきものが、時として甘すぎる気がする。とりわけ「空蝉」という作品にはやや違和感があった事は、書いておきたい。

とはいえ、どんなに足りないものがあっても、欠落があっても、それを誰かがきっと埋めてくれる、助けてくれる。この世は生きるに足る美しい場所である、そういう基本的な姿勢がすべての作品に貫かれている。短編がいくつか入っているが、最後の作品は、まさに無菌病棟の中が描かれていて、彼女が考えていたこと、得たものが表現されている。どうか病も生きる力に変えて、これからも頑張って書き続けて欲しいと願う。

2015/10/26