無菌病棟より愛をこめて

2021年7月24日

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「無菌病棟より愛をこめて」加納朋子 文藝春秋

 

ミステリ作家である加納朋子の闘病記。やけに疲れやすくなって、発熱して、肺炎になって、病院に行って検査したら、なんと急性白血病であった。そこから始まる辛い治療の日々の物語である。
 
辛いと行っても、加納さんのすごいところは、常に前向きで明るく、ユーモアも忘れない姿勢があることだ。周囲を支える人たちも、冷静でいながら気配りのきく、出来る限りのことを当たり前のようにやってくれるあたたかさにあふれている。基本、悪い人は出てこないし、読んでいて真っ暗な気持ちになることもない。これって、書き手のすごい精神力の技なんだと思う。
 
家族、親兄弟の結束の固さと思いやりも素晴らしいし、医療スタッフも誠実である。現実には、いろいろなことがあったのかもしれないけれど、それをこんなふうに書けるということは、そんなふうに捉えることが出来たということだ。加納さんてすごい。
 
予後の難しい病気にかかり、つらい副作用と戦う治療を受けながら、その記録を取らずにはいられない物書きの性。それでも、一部日付が飛んで、書かれていない部分は、どんなにか大変だったことだろうと思う。
 
弟さんとの骨髄がフルセットで適合して、骨髄移植を受け、今は無事に退院されている。辛い治療が一段落したところで、3.11地震が起こり、それを機に記録はひとまず終わる。この気持はわかる。日々を健康に、何の心配もせずに過ごしていた人が、あっという間に大勢亡くなってしまったあの出来事は、あらゆる人に、いろいろな影響を与えた。今を生きていることについて、誰もが深く考えざるを得なかったあの時期。病気を持ちながらも、少なくとも生き続けていることの意味を、もう一度考えなおすきっかけになったことは十分に想像できる。それが一つの区切りになった気持ちも、よくわかる。
 
あとがきで、彼女は「決して絶望しないでください」と書いている。ポジティブシンキングの大切さ、笑うこと、楽しみをもつことの大事さを書いている。
 
私たちは、だれだって、明日何が起きるかわからない世界を生きている。どんな人も、それは同じだ。加納さんが、大きな病気と闘いながら、笑ったり楽しんだりすることを大事にしたように、私達はみんな、同じように、笑ったり楽しんだりしながら、前を向いて生きていくしか無い、と思う。今を生きていることの奇跡に感謝する。それが大事だ、と私も思う。

2015/9/27