ごはんぐるり

ごはんぐるり

2021年7月24日

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「ごはんぐるり」西加奈子 NHK出版

 

(たぶん)西加奈子さん初体験である。おもしろかった。「NHKきょうの料理」のテキストに連載していたものだそうだ。料理本を見るのは大好きだし、そこに載っている料理にまつわるエッセイなんて大好物である。そりゃ面白いに決まっている。
 
西さんはエジプト育ちだ。小学生の時にドイツのサマースクールに参加したそうだ。いろんな国に住んでいる日本人学校の子どもたちが集まって交流、集団生活を学ぶものだそうだ。同じ班になったドイツやスイスから来た子は、食事の時間にサラダをためらいなくパクパク食べたそうだが、西さんを含むエジプト組は顔を見合わせたそうだ。サラダが、生だったからである。エジプトではナマモノは危険であるから食べてはいけないものだった。大人も決して口にはしないものだった。生野菜だけで構成されるサラダをためらいなく口に入れるなんて、とんでもないタブーだったのだ。だが、ドイツのサラダは大丈夫らしい。というわけで、おずおずと彼らもサラダを食べた。久しぶりに食べた生の野菜は、新鮮で、甘くて、とても美味しかった。彼らは、サラダばかり何度もおかわりをした。生ハムも食べた。中が少しだけピンク色のソーセージも食べた。感動的に美味しかった。その強烈な印象が、読む者にもひしひしと伝わってくる。
 
ビール好きだった西さんが、ビール以外のお酒も料理に合わせて飲むようになった話も楽しい。半生の蟹の絡みあえを食べて、こりゃビールが進むな、と思いつつ、でも、ビールのような苦味だけじゃなっくてもう少し甘いお酒がいいかも、と思っていたら紹興酒がぴったりだったという。そうよ、そうよ、料理には、それにピッタリのお酒があるの、いつもビールだけじゃ駄目なのよ!!と、読みながら私は深く頷く。酒盗には、日本酒。ピザやトマトソースには、ワイン。ソーセージにはビール。それぞれの料理にはそれにふさわしいアルコールがある。でも、どれにでも結構合っちゃうビールってすごい、と同時に西さんは言う。まあね、たしかにそうね、と私も頷く。
 
料理の話は、楽しい。筆力のある人の話は、とりわけ楽しい。美味しいものを食べたかのように、楽しい。

2015/4/8