東京プリズン

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2021年7月24日

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「東京プリズン」赤坂真理 河出文庫

 

2012年の作品。毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞、紫式部文学賞受賞作品。全然興味を持ったことも、読んだこともない作家だった。たまたま、新幹線用にごちゃっと借りた文庫本の一冊に過ぎない。でも、読み応えはがっつりとあった。
 
日本の学校に馴染めずに追いやられるようにアメリカの学校に転校した日本人の少女が、なんだか感じ悪い教師に強制されて、ディベートをすることになる。テーマは「天皇の戦争責任」。ものすごいな、アメリカってそんな事やっちゃうんだ、と、そこで私は思う。思ってから気づく。なぜ、日本では、日本の歴史そのものの、それも相当重要なこの事柄について、学校で話すことがほぼタブーとさえなっているのか?あまりにデリケートで、教師の誰も、このテーマについて授業を持つ勇気すら持てないのだ、それどころか、歴史の授業は常に明治維新あたりで終わっていたではないか、と。
 
私の受けた大学は近代史を多く出題することで有名だったので、私自身は戦後史までかなり綿密に受験期に勉強した覚えがある。でも、忘れちゃってるのよね。恐ろしい。面目ない。情けない。
 
この作品の主人公の女子高校生だって同じようなもので、自国の、割につい最近の歴史について何も語れない自分に愕然とする。そして、調べよう、学ぼうとすればするほど、わからない泥沼に陥っていく。天皇制というものの本質がつかめず、戦争中の天皇と軍部の立場についてわからなくなって行く。リメンバー・パールハーバーを言い募るアメリカ人に、大空襲でじゅうたん爆撃をしたアメリカ軍の行為について反論する展開は胸を突かれるものがある。ディベートのシーンには、心を揺るがされる。だが、だからといって、では、私が同じ立場に置かれた時、何を主張し、何を言えるだろうかと問われると呆然とするしかない。
 
最後に、主人公は「自由の、何という孤独。」とつぶやく。そう、自由は孤独である。だが、そこに私は希望を見出す。孤独であることにより、私達は自由になれる。自由であることは、孤独を甘受することである。それを、私は教えられた思いである。

2018/11/30

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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