今日もごちそうさまでした

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2021年7月24日

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「今日もごちそうさまでした」角田光代 新潮文庫

 

角田さんは、やっぱりうまい。
 
この本は食べ物に関するエッセイを集めているのだけれど、読んでいるといろんなものがどんどん食べたくなる。
 
若いころひどい偏食だった彼女に、三十代にして食革命が起こり、いままで苦手だった野菜やキノコや青魚、それにからすみといった珍味類までが食べられるようになった、美味しいと感じられるようになった。その驚きと喜びと感激がひしひしと伝わってくる。
 
めんどくさがり屋で料理下手だと言っている割に、結構まめにやってるじゃないか、と読んでいて感心する。調理したこともない白子なんぞを試しに買ってみて、筋を取り、洗い、水気を拭き取り、塩コショウし、小麦粉をはたき、多めのオリーブオイルで焼いてバルサミコ酢と醤油でソースを作ったりする。偉いなあ、ウマそうだなあ。
 
加齢するごとに、美味しいものが増え、旬を味わいたくなる、と彼女はいう。残された時間を大事に使いたいからだ。あと何回味わえるか、と思うからだ。その気持が、私もはよーく分かる。
 
私も年を経て、食べられるものが増えた。もともと好き嫌いはとても少なかったのだが、さつまいも、かぼちゃ、栗のたぐいが駄目であった。ついでに言うと、餡こも小豆もそれほどであった。が、今は栗以外は全部ウエルカムである。栗だけは、どうしても食べられないままなのだが。
 
美味しいものが増えるのは、幸せが増えることである。加齢も悪いもんではない、としみじみ思う。残された日々を、できるだけ美味しいものとともに過ごしたい。つまんないもので時間を無駄にしたくないのである。

2015/5/5