老いぼれ記者魂

老いぼれ記者魂

2021年7月24日

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老いぼれ記者魂 青山学院春木教授事件 四十五年目の結末」

早瀬圭一 幻戯書房

 

1973年の青山学院春木猛教授事件。と聞いて、ああ、あの事件ね、と思い出せる人はどれだけいるのだろうか。大学教授が教え子を大学構内で乱暴したとして逮捕された事件。当時、大騒ぎになったのを、そのころ、新聞を読むことを覚えたばかりの私も覚えている。
 
加害者とされた春木教授は最後まで合意のもとだったと主張し、無罪を訴え続けたが、有罪判決を受け、失脚した。当時、被害者によるでっち上げだったんじゃないかという記事も読んだ覚えがあるが、どっちにしろ教授のくせに大学構内で学生に手を出すなんて、その事自体が最悪だわ、と潔癖少女だった私は思ったものである。
 
筆者はその当時に毎日新聞社の記者だった。この事件に納得しがたいものを感じ、ずっと真実を追い続け、いつか本にしようと思っていた。春木教授は、身の潔白を必ず証明すると言いながら、1994年、84歳で亡くなった。彼の死後も、ずっとこの事件を追い続けてきた筆者の執念を感じる。
 
被害者とされた女子学生は、実は地上げの帝王早坂太一の愛人で、しかも、代議士中尾栄一とも関係があったとか、その背後には青山学院大学学長の権力争いがあったとか、新学部創設を巡って大きな闘いがあったとか、掘れば掘るほどきな臭い現実が見えてくる。検察の取り調べも、裁判の進め方にも、大きな偏りがあって、なぜこんな裁判が許されたのかにも大きな疑問が湧いてくる。裏にある大きな力。それが、司法にまで及んでいることに不気味さを感じる。
 
筆者は、執念の果に、この事件の被害者とされた元女子学生との電話での会話に成功する。多くを語らない彼女の言葉は、だからこそ、生々しい。
 
結局、何も取り戻せるものはない。ただ、なんの良心もなく、自分の欲望のために何でもできる人間がこの世にはいる、ということを改めて思い知らされる。暗澹たる思いになる。
 
もっとセンセーショナルな売り方でこの本を売ることも出来ただろうに、と思ったりもする。もう少し早く出すことが出来ていたら、何か違っていたのだろうか。
 
 
 
 
 

2018/7/31