からすのパンやさん

からすのパンやさん

2021年7月24日

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「からすのパンやさん」かこさとし 偕成社

 
子どもが小さいころには何度も何度も繰り返し読んでやったものだ。何年ぶりだろう。やっぱり名作だ、と改めて感心した。
 
おおきなきがにひゃっぽん、ちゅうくらいのきがよんひゃっぽん、ちいさいきがはっぴゃっぽん ありました
 
というだけで、大きな森が目の前に広がる。言葉のリズムが楽しい。子どもたちが、引きこまれていく。
 
四羽の赤ちゃんの オモチちゃん、レモンちゃん、リンゴちゃん、チョコちゃんの名前を聞きながら、小さな我が子が指で一羽ずつ指差して確認していたことを思い出す。
 
みんなでパンを作るところはとても楽しく、まるで一緒に作っているかのように子どもたちは喜んだ。そして ほかほかー こんがりー おいしい パンが、たくさん やけました という場面に並ぶパンの、本当に美味しそうなこと。ページをめくった瞬間に子どもは「わっ!」という顔をし、うっとりと眺める。だが、その二ページ先の魅力はさらにすばらしい。
 
とっても すてきな、かわった かたちの、たのしい おいしい パンを どっさり たくさん つくりました に並ぶ細かなパンたちの楽しさといったらどうだろう。小さな指で一つ一つつまみ上げては口に運び、もぐもぐと食べる真似をしていた息子。これがすき!とお気に入りのパンを指差していた娘。なんだか笑っちゃって、ゲラゲラとずっと絵を眺めていた二人。うちの子たちはこのページが大好きだった。
 
消防自動車はやってくるわ、武装警官はやってくるわの大騒ぎも歌で盛り上がる。適当なメロディで歌っちゃうのだ。その後パンを買いに来た鳥達はお行儀よく並ぶ。ここらへんは教条的・・とおもいきや、結構いろんな態度で皆さん並んでいて、これまたじっくり眺めると見飽きない。
 
あなたが しらない もりの なかで こうばしい おいしい においがしたら、もりの うえのほうを みてごらんなさい もし かざぐるまが、ちらちら まわっているのが みえたら、そこが からすの パンやさんが いる いずみがもりなのです。
 
というエンディングも秀逸。この物語は、自分とは無縁のどこか遠くのお話じゃなくて、どこかへ連れて行ってもらったとき、森があったらからすのパンやさんに会えるかもしれない、あのパンが食べられるかもしれない、と子どもたちが感じられる。物語が自分と繋がる。そして、ほおっと満足のため息を付いて、本を閉じる。
 
(引用は「からすのパンやさん」かこさとし より)

2015/11/27