堤清二 罪と業

堤清二 罪と業

2021年7月24日

125

「堤清二 罪と業」児玉博 文藝春秋

 

西武王国を築いた堤康二郎の息子にして詩人 辻井喬でもあった堤清二。場末の潰れかけた店であった池袋の西武百貨店を立て直して全国出店、パルコ、美術館、書店、出版事業などを立ち上げて文化事業を大々的に展開し、その後衰退していったセゾングループの代表であった彼へのインタビューを元に堤一族の真相を語ったノンフィクション。
 
私には下衆な趣味があるのかもしれない。一度成功した後に堕ちていった人・・例えば田中角栄など・・に非常に興味を持ってしまうところがある。堤氏に関して言えば、文学者としても、文化的な事業に対しても大いに敬意を持っているのだが、インサイダー取引で大失敗したコクドや西武鉄道の義明氏とどんな関係があったのか、三流週刊誌的に気になるところであった。
 
この本を読むと、清二、義明をめぐる確執が明らかになる。どちらも愛人の子であったが、後に清二は正妻の子となり、義明は愛人の子のままではあったが、最終的に西武グループの後継者となる。清二は文学に精通するとともに経済的手腕にも優れたいわゆる天才であり、義明は父から帝王学を叩き込まれたが、猜疑心の強い人であった。
 
清二は天才ゆえに、凡人を赦すことが出来ない人であった。彼の側近は、彼が毎日リブロで購入した本を手分けして読んでは概要をメモして回しあって会話についていく準備をしたという。本人は毎日二時間の読書時間でそれをすべて読破し、常に豊富な知識で周囲を圧倒し、それについてこれない者を理解しなかった。
 
義明は、自家用ヘリコプターで全国のプリンスホテルにいきなり降り立ち、支配人スタッフ総出で十分な歓迎が出来ないと激怒したり、早朝、幹部を箱根に呼びつけて馬跳びをさせたりとなかなかな暴君であった。後にインサイダー取引で逮捕されたとおり、経営もワンマンな人であった。
 
清二は、義明を西武グループの後継者にして、自分が支えると父に誓ったという。義明は、ただの子どもで何もわかっていないので、もう軌道に乗っている事業をやらせておけば安全であり、自分はだめになっている部署だけを貰えば、そこを活性化していくからという心づもりだったという。父に最も愛されたのは自分であると自負していた清二。父の死後、義明との関係性は冷え切って、支えることもなくなったが、彼の逮捕後、どうにかそれを助けて堤家を再興しようと東奔西走する。が、義明はどうしても会おうとせず、そして清二は亡くなってしまった。清二が最も求めていたのは堤家の再興であった、というのは、何やら広く文化事業にあれだけ心血を注いでいたこととちぐはぐな気がしないでもない。
 
愛人であった母を捨て置かれて、貧乏だった子ども時代。それでも父への愛憎半ばした感情に、彼は一生引き裂かれていたのだ。
 
義明氏はまだご存命だけれど、いま、父親のこと、清二氏のことをどう思われているのだろうか。なんて知りたくなるのは、実に下衆な感情なのだろうなあ・・・。

2016/11/20