團十郎復活

團十郎復活

2021年7月24日

189

團十郎復活 六十兆の細胞に生かされて」市川團十郎 文藝春秋

 

早めに行っておかないと、いつ閉館になるかわからないから・・・と県立図書館へ。いつもはネット予約の本を受け取って、興味のある雑誌があれば、それをパラパラめくるくらいだが、今日はじっくり書棚を見て回る。そこで発見したのが、この本。「團十郎復活」なんだけど、このあと逝去されたことを知ってるからなあ・・・。少々つらい思いで手に取って、表紙の顔写真に胸が詰まって、やっぱり読もう、と借りてきた。
 
落ち着いた人だった、と思う。揺るがないものがあることを、ただそこにいるだけで感じさせるような。(息子はやんちゃだったけどね。)読んでみたら、見たとおりに人だとわかった。冷静で、客観的で、歌舞伎を背負って立つ使命感を持っている人。どっしりとして、あまり目新しいことには手を出さないが、伝統を粛々と継承していくことに、文字通り命をかけた人。
 
白血病を発病したのが2004年で、亡くなったのが2013年。十年近く入退院を繰り返し、壮絶な闘病生活の合間に舞台に立ち、二度もフランス公演を行っている。病を得たことも、辛い治療も、先々への不安も、決して感情的になることなく、淡々と語っている。この凄みは何だ。自分という個人が生きているというよりは、歌舞伎役者として人生がある、と思っていたのだろうか。入院中には本を読み、歌舞伎の台本を書き、新しい歌舞伎座について思いを凝らしている。
 
副題は、作者がもともとは、宇宙の単位で物を考えるほうが素晴らしい発想ができると考え、小さな人間の尺度で物を考えることを軽蔑していたが、ある時、広大な銀河系を構成するよりも遥かに数多くの細胞が自分の体を構成しており、外的と戦い自分を支えてくれていることに気づいたことに由来しているという。
 
今更ながら、ご冥福を祈りたい。

2020/3/4