モリのいる場所

2021年7月24日

「モリのいる場所」沖田修一 監督

 

画家の熊谷守一を山崎努が、その奥さんを樹木希林が演じる。以下、ネタバレがあるので、これから見る人は読まないでね。
 
 
熊谷守一が好きだ。近代美術館まで彼の絵を見に行ったことがある。昭和天皇が「これは何歳の子どもが描いた絵ですか?」と尋ねたそうだが、そんな素朴な絵が、本当に素晴らしい。
 
家から一歩も出ずに30年。ただただ自宅の庭の自然やいきものを毎日じっと観察し続け仙人のような暮らしをした熊谷守一。彼の晩年のあるひとコマを切り取った映画である。「私、気が付きました。アリは左側の二番目の足から動き出します。」というすごいセリフ。毎日毎日、ひたすらアリを見つめ続けなければ決して出てこない。
 
浮世離れしたモリの家の表札は、毎日のように盗まれる。売れば値が出るからだ。信州から、経営する宿の看板を書いてもらいに来た社長は、願ったのとちょっと違う看板をもらって帰ることになる。ある日、文化勲章受賞の知らせが電話で来るが、なんと答えたのやら。日々は淡々と過ぎ、モリは、「母ちゃんが忙しくなるのが一番困る」のである。
 
何の事件も起きない、ただただ間が過ぎるだけの退屈な映画である。退屈だけど、私は浸りきってしまう。ただ、二箇所だけ、いただけないところがあるけどね。ドリフの場面と、夜の訪問者。それはやりすぎじゃないの?と私は思う。やりたかったんだろうけれど。
 
山崎努と樹木希林は素晴らしい。ただ彼らを眺めるだけの二時間弱だったとしても、私は損したとは思わない。引越しが済んだら、都豊島区の熊谷守一美術館を必ず訪ねようと思った。

2020/3/24