空の拳

空の拳

2021年7月24日

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「空の拳」 角田光代 日本経済新聞社

私は怖がりで血を見るのが嫌いで喧嘩や争いごとも大嫌いだ。なのに、高校生のころ、ボクシングが好きだった。モハメド・アリが好きだったからかもしれない。それから、今の人はきっと信じられないだろうけれど、現役時代のガッツ石松はすごくかっこよかったし、輪島功一や具志堅用高も、キラキラ輝いて見えた。殴られて、顔が腫れ上がって、血まみれになっても前に出て行くのってなんてすごいんだろうと思っていた。

私のボクシング熱はほんの数年で消えてしまったけれど、この本を読んだらその頃の感覚がちょっと蘇ってきた。文芸誌の編集がしたくて苦労して苦労して出版社に入ったのに、誰も読んでいないようなボクシング雑誌に回されてしまった新人君をめぐる物語だ。嫌で嫌でたまらなかったのに、取材を重ねているうちに、どんどんボクシングの虜になって、自分もジムに通うようになる。ボクサーの経歴詐称に関わってしまうのだけれど、それに対しても、いかにもボクシング、というやり方で向き合っていく。

格闘家は、ヒールも必要なのよね。そして、ふてぶてしい態度をとるところから得ることも、たくさんある。そうじゃない真面目なおりこうさんのボクサーもかっこいいけどさ。私はアリみたいなビッグマウスが大好き。自分を何倍もの大きさに見せようとすること、それによって自分を奮い立たせること。ボクサーじゃないけど、私もやったなー。若いころは怖いもの知らずだったからね。

物語は、ちょっとダラダラしている。新聞連載小説だからかな。毎日読む人と、一気に読む人ではリズムが変わってきてしまうから、本にまとめる時に加筆しちゃダメなんだろうか。もったいない気がするけど。

2013/6/26