とにかく散歩いたしましょう

とにかく散歩いたしましょう

2021年7月24日

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「とにかく散歩いたしましょう」小川洋子 毎日新聞社

 

娘の買い物に付き合って吉祥寺をさまよい歩いた。スカート一枚、財布一個買うのに数時間歩き続けるのである。人は多いし、店はあちこちあるし、娘は選びあぐねて迷うし、ほとほと疲れてしまった。どこかで一休みしたいのだが、そこらのカフェは満杯だし、ベンチもあいていない。そうだ!というわけで、吉祥寺図書館へ行ったら、ちゃんと座り心地のいい椅子があいていた。やれやれ、と書棚から持ってきて読み始めたのがこの本である。
 
一篇四ページ程度の短いエッセイがいくつも納められている。表題は、小川さんの愛犬ラブラドールのラブちゃんのセリフである。小川さんの愚痴や繰り言にラブちゃんはじっと耳を傾け、「ひとまず心配事は脇において、とにかく散歩いたしましょう。散歩が一番です」というのである。
 
そういえば、私もかつて犬を飼ったことがあって、悩みがあるとよく彼と散歩した。どんなときも、犬は散歩こそが一番であるという態度であった。それに救われたことも覚えている。
 
あとがきで、そのラブちゃんが亡くなったことが書いてあった。それでも、小川さんは一人で散歩しているそうである。散歩はいい。歩くと、嫌なものがどんどん心からそこらに落ちて散っていくのがわかる。
 
私も、とにかく散歩いたしましょう。
 
なんて思っていたら、図書館閉館の放送が入った。日曜日は、五時閉館なのである。やれやれ。また買い物の続きをしなければ。まあ、これもひとつの散歩であると思うしかないね。

2015/12/24