私のなかの彼女

私のなかの彼女

2021年7月24日

「私のなかの彼女」角田光代 新潮社

 

18歳のときからずっと付き合ってきた恋人。自分の一歩前を進んでいく彼に追いつきたい、対等になりたいと願いながら仕事をし、書くことに出会い、賞を取り、道を見失い、別れに至る。自分の祖母がまた、物を書く人であったこと、師匠と仰いだ男性との関係性から書くことを断念したらしいことを追いながら、自分と重ね合いもする。その中から、自分が書くということに、もう一度立ち返る・・・ということを書いているのだ、と思う。
 
角田光代ですら、こういう話を書くのか、と思った。思ってから、いや、彼女だからこそ書くのかもしれない、と思い返したりもした。誰かに認められるため、誰かと対等になるためではなく、自分のうちから溢れ出るものと出会うときこそに、本物が書けるということに、きっと何度も何度も気づいたことがあるのだろう。様々な経験を通して、自分が自分らしく生きていく、書いていくということに突き当たるためには、何度も間違って失敗して恥もかいて苦しみもして傷つきもせねばならなかったのだろう、と改めて思う。誰だってそうなのだから。
 
彼女の才能は、こうした誠実さに裏打ちされたものなのだなあ、と私は思った。

2020/4/11