詩に就いて

詩に就いて

2021年7月24日

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「詩に就いて」谷川俊太郎 思潮社

「詩について」じゃなくて「詩に就いて」なのだ。十代の頃からずっと詩人という職業だけで生きてこられた谷川さんでなければ付けられない題名だ。

谷川さんはあとがきで「本来は散文で論じるべきことを詩で書くのは、詩が散文では論じきれない部分をもつことに、うすうす気づいていたから」と書かれている。この詩集は、谷川さんが詩を書くことそのものが詩になっている。

揺り籠が揺れるのはいい
風に木々が揺れるのも
船が波に揺れるのも
風鈴が揺れるのも

だが地面が揺れるのを
どう受け容れればいいのか
と、詩は問う

(引用は「詩に就いて」内「難問」より 谷川俊太郎)

震災のあと、あらゆる人があの震災をどう受け止めるか考え、語った。語らないわけには行かなかった。そして、その只中で、何を語ったかが、その人のあり方をくっきりと見せてくれた。

谷川さんは「どう受け容れればいいのか」と詩に問われ、難問だと答えている。谷川さんが生きることは詩であったから、答がなければ、答がないと書くしかなかった。短い詩だけれど、それが谷川さんだと私は思った。

2015/6/24