恋歌

恋歌

2021年7月24日

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「恋歌」朝井まかて 講談社

 

直木賞受賞作品。ということはあんまり気にしてなかったのだけれど。樋口一葉の歌の師匠だった中島歌子の恋の物語。というか、これは水戸藩天狗党の物語でもある。
 
幕末の江戸で、豪商の娘が水戸藩士と恋をして結ばれる。城下ではすっかり噂の種になる嫁入りだったらしい。夫は尊皇攘夷を掲げる水戸天狗党の志士。水戸藩内は天狗党と諸生党に分かれ、内紛している。天狗党は暴走し、内乱に負け、慶喜に直訴を企てて京を目指すが黙殺され、極悪非道の扱いのうちに処刑される。国に残った天狗党の家族は投獄され、幼い子供や妻たちは次々に首をはねられていく。
 
そんな中、投獄はされたものの何とか生き延びた歌子は江戸へ逃れ、歌で身を立てる。彼女の秘書になった女性は、実は諸生党の身内であった・・・・。
 
水戸藩は、幕末、大きな志を持ちながら内乱に明け暮れ、いがみ合い、殺し合っていた。有能な人物はほぼ殺されてしまい、残された者達も、妻子を殺された恨みとともに凄惨な最後を遂げている。薩長が維新に大活躍したのと対照的に、水戸藩は、ひたすら内部で残虐なやりあいをしていた。この史実は、実は驚くほど知られていない。ごくわずかに生き残った者達とその子孫にとって明治維新などごく最近のことで、まだ思い出したくもないほど生々しく恐ろしく許せない出来事のままであるからか。
 
この物語を通して、天狗党と諸生党の争いがいかに無益なものであったか、同じようなことが今でもどこかで繰り返されていないのか、多くの人達が気が付き考えるきっかけとなるといい。
 
 

2015/7/23