甘いお菓子は食べません

甘いお菓子は食べません

2021年7月24日

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「甘いお菓子は食べません」田中兆子 新潮社

 
六編の短編が入っていて、一つの作品に登場する脇役が次の作品の主人公を務めている。そういう関連付けがちょっと楽しい。最後の「べしみ」で第10回「女による女のためのR-18文学賞」の大賞を受賞している。
 
独身、または夫がいても独身みたいな生活をしている中年女性の心理を描いた作品ってそんなにない。と書こうとして、田辺聖子をちょっと思い出したが、それにしてもあんまりいないよね。この本は五十歳前後の独身女性の情けない日々をていねいに描いている。
 
私は独身じゃないけれど、それでも、結構身に迫るものがある。とりわけ「残欠」という短編はすごかった。子どものおやつ作りをしていて、中学生の息子が帰ってくる。ほのぼのしたホームドラマのような風景が、だんだんに怖い色合いを帯びていく。アルコール依存症の心理があまりにもリアルに描かれている。お酒は好きだけど、依存症になるほどじゃない私も、読んでいるうちに自分も病気になったみたいな気分になっていく。
 
「べしみ」はカフカの「変身」の中年女性版・・・というわけでもないんだけど、それに近い。笑うというか、驚くような出来事があっても、困惑しながらそれを受け入れてしまう主人公が全然不自然じゃなくて、わかるわかる、と同化してしまう。
 
遅くに書き始めた作家さんのようだが、とても面白かった。これからが楽しみかも。

 

2015/3/27