波照間の怪しい夜

波照間の怪しい夜

2021年7月24日

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「波照間の怪しい夜」 椎名誠 雷鳥社

だいたい2004年から2008年頃までの写真と、それにまつわる文章が載っている写真集のようなエッセイ集。題名からもわかるように、島の写真が多い。

私は、島が好きだ。

最初に島好きに気がついたのは、学生時代、伊豆大島に行った時のことだった。竹芝桟橋から、夜、船に乗って、船底の二等船室でごろごろと過ごし、朝、港についた。陸に足を下ろした瞬間、ここは島だから、もし、何かあったら簡単には家に戻れないんだぞ、と思った。その瞬間の、隔絶された感覚!

嵐が来たら、船が来なかったら、乗れなかったら、突然航路が閉ざされたら。そんなことは絶対にありえないのに、様々な妄想が私の頭をよぎり、そして、「私は自由だー!」と叫びたいような、わくわくするような気持ちに襲われた。実際には、二泊三日でおとなしく帰っただけなのにね。

この本の幾つかの島の写真を眺めていたら、その時の感覚を思い出した。あれから、私もずいぶんいろいろな島に行って、すっかりスレてしまって、今じゃ「自由だー!」とは叫ぼうと思わなくなっちゃったんだけどね。それでも、島に行くと、なんだか日常と切り離されたような、特別な場所にいるという気持ちにはなる、今でもなる。

椎名の写真はいい。その瞬間の、その場の空気がつかめるようだ。とりわけ、子どもの表情がいいのは、椎名が、半分子どもみたいな大人だからかもしれない。子どもは、全然警戒しないで、当たり前のように写っている。

椎名も爺ちゃんになったなあ。昔みたいに世界中を飛び回ることはしなくなった。でも、ちまちまでいいから、日本のあちこちを、これからも撮ってほしい。椎名の目を通した世界を、これからも見たいし、読みたい。

2012/7/13