老嬢は今日も上機嫌

老嬢は今日も上機嫌

2021年7月24日

60       「老嬢は今日も上機嫌」 吉行和子 新潮文庫

言わずと知れた名女優。兄は文学者の吉行淳之介、妹は詩人の吉行理恵、母は美容家の吉行あぐりである。

謀ったわけではないのに、この本も俳句が関わっている。昨日の寅さんと同じ句会にも参加していたらしい、この人。そもそも、親友の、そしてこの本にもしょっちゅう登場する冨士眞奈美は立派な俳人でもあるし。

喘息持ちで、体が弱くて、学校にもろくに通えなかった和子さん、ある日、舞台のお芝居を見て、やってみたいけれど、自分の体力じゃ無理だから、せめて、舞台衣装を縫う人になろう、と劇団民藝を受験して、なぜか受かってしまった。それから五十数年間、彼女は女優で在り続けている。

この人の舞台を、私は一回しか見たことがない。もう三十年近く前だろうか。蟹江敬三さんとの二人舞台を、渋谷の小さな劇場で見た。自由でのびのびとして、ちょっと意地悪で、でも、素直で、気持ちのいい芝居だったことを覚えている。たぶん、あの芝居そのままの人なのだろう、とこの本を読んで思う。題名にもあるとおり、この人は、どんな時でも、上機嫌であろうとする。それは、人として、とても大事なことであり、素晴らしいことであり、難しいことだと思う。

たいそう読書家なこの人の本を読んでいると、面白そうな本の題名が次々と登場して、読まなくちゃ、とメモが増えていく。いろいろな人と出会い、いろいろな場所に旅をし、家族を大切にし、仕事を楽しみ、けれど、決して自分を明け渡さない。適度な距離感を常に保つことが出来る、オトナである。

こんな年の取り方をできたらいいなあ、と読んでいて思う。そう思わせてくれる彼女もまた、自分の母親を見て、同じように考えているらしのが、楽しくも素敵だと思った。

2011/6/22