キャパへの追走

キャパへの追走

2021年7月24日

48

「キャパへの追走」沢木耕太郎 文藝春秋

「キャパの十字架」で有名な写真「崩れ落ちる兵士」の真実を突き止めた沢木耕太郎。それは実は、キャパの写真の現場を訪れて同じような構図で写真をとって2つを見比べてみよう、という企画から生み出されたものだった。この本は、その本来の企画をまとめたものである。

旅するカメラマンであったキャパは、様々な場所で写真を撮り続けた。沢木耕太郎は写真を頼りに撮影された現場を探し歩き、ほぼ同じ場所で自分も撮影している。現場を探す彼の旅物語はとても興味深く、時として驚くような偶然に導かれたりもしている。

ネットで検索すれば何でもわかってしまうような、なんでも手に入ってしまうような時代だけれど、だからこそ、写真一枚を手に現場を探し、その場に立ち、同じようにファインダーを覗くことの重みを感じる。その場に立たなければ感じ取れない、わからないものがあることに気がつく。

戦火を逃れ、恐怖と疲労にぐったりとして表情を失った少女が座り込んでいた同じ場所に、遠足でやってきて、先生の言葉に耳を傾ける少女がいる。平和とはこういうものだと思わずにはいられない。

キャパは、ちょっと嘘つきだった。そして、写真も時として嘘をつく。だとしても、それをも含めて、キャパという人物をまるごと受け止め、理解しようとした沢木耕太郎の、調べ、考え、書く力に、私はしみじみ感じ入るのだった。人間ってそういうものだな、と思うのだった。

2015/7/22