総特集 上野千鶴子 (現代思想)

総特集 上野千鶴子 (現代思想)

2021年7月24日

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総特集 上野千鶴子」 現代思想 12月臨時増刊号 青土社

上野千鶴子の「家父長制と家事労働」というブックレットを本屋で発見、購入して何度も読み返したのは、私が結婚した年だった。それまで私は息苦しい家族という枠組みの中であっぷあっぷしていた。好きな男との暮らしを手に入れて、では、のびのびとできたかというと、やはりそこには、色々な軛があった。夫は極めて公正な人であり、私を一人の人間として尊重してくれはしたが、妻という役割は、社会や、親族や様々な場面で、やはり私を圧迫したし、当の本人たちー私も、夫も、思いがけない枠組みにとらわれ生きていることに気が付かされる日々だった。

そんな中で読んだその薄っぺらい本は、私に様々なことを考えさせた。その頃の、まだ経験うすく、こうあるべきだという論理ばかりが先走る若い私にとっては苦い本でもあった。なぜなら、曲がりなりにも働いてはいたが、様々な条件によって主婦として家事労働を一手に引き受ける生活が目前にあり、それを受け入れることが堕落であるかのように思わせる、強い説得力を持った論理がそこにはあったからだ。

あれからずいぶん経ったのだなあ、とこの本を読んで思う。上野さんの文章が掲載された記事や本を、その間にいくつも読みながら、私は年を経てきた。匕首をつきつけられているような気持ちになることもあれば、暖かく包まれているような気持ちになることもあった。我が身を反省したり、ああ、私は間違っていなかった、と味方を得る思いだったこともある。そして、この年になって、こうやって総合的に振り返る特集を読んで、なるほど、と腑に落ちたところがとても多い。

もとより私のような浅学の人間には、上野さんの論理がどれほどわかっているかは定かではないが、この人は、とても真っ直ぐで正直で、真正面から戦う人であり、逃げない人であると知っている。売られた喧嘩は買う、という鮮やかな態度を取りながらも、自分の過ちをあっさり認める潔さもある。彼女は喧嘩に勝ちたいのではなく、自分の学問を究めることが出来ればそれでいいのだ、と私は思っていたのだが、そうしたら、同じ事を何人もの人が書いていて、ああ、やっぱり、と嬉しくなった。

驚くほど多方面の様々な人が、この本の中で上野千鶴子を語っている。目から鱗が落ちる様な対談もあった。巻頭の小熊英二氏との対談は、圧巻である。

上野千鶴子は怖い、と言われているが、実はそうではない、と思う。実際、彼女に教えを受けた学生たちは、口々に彼女の優しさ、面倒見の良さを言う。教師としてもまた、彼女は優れているのだ。

権威によらない、弱いものにとことんよりそうという決意が彼女にはある。党派化しない、国家に組み込まれない、個人としての私で在り続ける。その姿勢が、私は好きだ。

2012/2/13