大阪アースダイバー

大阪アースダイバー

2021年7月24日

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「大阪アースダイバー」 中沢新一 講談社

「東京アースダイバー」を以前に読んだのだけど、記録が残ってない。なぜだ?とても面白かったのに、いつ、記録し忘れたのだろう・・・。それはともかく。

「東京アースダイバー」の大阪編。と呼ぶには、ちょっとためらうくらい、様子が違う。東京の方は、地形学や考古学や文化人類学的な視点から、割に根拠を固めて書かれていて、その説得力にも驚いたのだけれど、こっちの方は、フィクションめいているというか、「見たように」書かれているなあ、と思う。いや、見たはずはないんだけどね。半分、ファンタジーの世界のような感覚もある。それって、なぜ?と思いながら読んでいたのだけれど、「エピローグにかえて」という一文を読んで、理由がわかった。

大阪の歴史を書くときには、とても微妙な、扱いに気をつけねばならない要素にどうしても抵触せねばならない。そのために、「隠すことであらわにしたり、逆にストレートに書いているようで、じつは隠しているというデリケートな文体の開発が必要」だったそうだ。なるほど。その結果、まるで物語を読んでいるようで、それでいて、歴史というものを深く伝える文章が出来上がっている、と私は思う。

大阪って凄い街だ、と私は以前から思っていた。前に関西に住んだとき、すっかり関西の空気に取り込まれてしまって、東京に引っ越したら、関西が恋しくなった。四年後に戻ってきて、ああ、これこれ、と思ったものだ。いま住んでるのは実は大阪じゃないんだけど、これくらいの距離で、ディープな大阪の手触りを感じるくらいが、関東者の私には、じつは心地よいのかもしれない。

商人の町だったということを根拠に大阪の特異性を説明したのは司馬遼太郎だったっけ。その分析に、その時私はかなり感心して納得したのだけれど、この本を読んで、大阪という町の特別さが、さらに深く理解できたと感じる。封建制度が農業、米によって立つものであったのと比して、経済、商売によったこの町は、日本中の他のどの町ともちがう成り立ちをしている。そして、それが人々の文化と思想に根付き、生き方を方向付けている。

歴史というものは、遠く切り離された昔という時空にあるのではなく、脈々とつながり、続いて、今に息づいているのだということを、私はこの本で再確認した。

それにしても、この本が本当に言いたかったことは、たぶんあれだな、と思いながら読んでいたら、本当に書いてあって、あらら、と思ってしまった。それは書かなくても良かったんじゃないか、ともちょっと思う。ちゃんと伝わるからさ。でも言いたかったんだろうなあ。

事態はさらに悪化しているので、ますますこんな本は出しにくく、というか、売れにくくなっていたりするのだろうか。うーむ。

2012/11/20