もう一杯だけ飲んで帰ろう。

もう一杯だけ飲んで帰ろう。

2021年7月24日

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「もう一杯だけ飲んで帰ろう。」角田光代 河野丈洋 新潮社

 

角田光代・河野丈洋夫妻は、かなり年の離れた夫婦であるのだけれど、角田さんがふんわりとした可愛らしい雰囲気の人なので、全然無理した感じはなくて、とてもお似合いの良いご夫婦である。この本は、そんなご夫婦が一緒に色々なお店で飲んだ話をそれぞれに書いてある。角田さんは文章のプロだけれど、河野さんはそもそもがミュージシャンなので、文を書くことにやや不安を述べていらしたが、非常に素直で良い文章を書いていらっしゃる。しかも、その中に妻へのリスペクトが真っ直ぐに込められているので、読んでいてなんだか嬉しくなる。いいご夫婦だなあ。
 
この夫婦は、食べ物の好みがぜんぜん違う。角田さんは揚げ物、肉の人であり、河野さんは、出汁、魚の人である。でも、ふたりとも、人と楽しく飲むのが好き、という点では素晴らしく一致している。互いに、相手の好みも尊重しつつ、楽しく飲んでいる様子を見せてもらうのは、まるで一緒にテーブルを囲んでいるかのように楽しい。
 
この本によく登場する中央線沿線の街のそばに、私もつい最近まで住んでいた。本屋さんのイベントでこのご夫婦のお話を間近に聞かせていただいたこともある。その時は角田さんがドンペリの大瓶を差し入れされて、みんなで紙コップにちょっとずつ飲んだりもした。なかなかいい雰囲気であった。
 
私も夫も美味しいものが大好きで、飲むのも好きなので、角田さんたちのテリトリーを結構歩いているつもりだったが、それでも知らない店がいくつも出てきた。もちろん、知っている店もあって、そうそう、そこね、というところもあったけれど。知らない店をこれから飲んで回ろう、と思う前に、有ろう事か、引っ越してしまった。残念だったなあ。
 
笑っちゃったのは、この間行った香港の飲茶のお店の話が出ていたこと。行きたかったのに、行きそこねた、というその店に、私達は入って美味しく食べてきたのだよーん、とちょっと自慢に思ってしまった。わはは。

2018/4/17