こわいもの知らずの病理学講義

2021年7月24日

38

「こわいもの知らずの病理学講義」仲野徹 晶文社

 

若い頃は友達と会うと恋バナというか、誰と誰がくっついただの別れただの、今あんたの彼氏とはどうなってるのだの、文字通り生産的な(?)話題が中心だったというのに、今や話題と言えば、病気である。γGTPがいくつだの、血糖値やコレステロールがどうしただの、やっぱり抗がん剤は怖いらしいよだの、トホホではあるが、歳を重ねるとはそういうことである。病気自慢というか、どこがどれくらい悪くて危ういか、をとりあえず告白し合うところから、会話は始まるのである。
 
そんなお年頃のわたしなので、この本は非常に興味深かった。大阪大学医学部で教えている先生が、街のおばちゃんおっちゃん相手に、病気ってこうやってなるんだよ、こんなふうに治療するんだよ、と病気のなりたちを、できるだけわかりやすくまとめてくれた本である。
 
読み終えて、最初に思ったのは、医者にならなくてよかった!である。書いてあることを、その場その場でなんとなく、おぼろげに理解することはできるが、この一つ一つを微に入り細に入り完全理解し、かつ、覚え、日々進歩する医療の現場にて実践し続けねばならない医者というものは、なんと大変なことか、改めて思い知らされた。無理だ、私。
 
とはいえ、著者も書いている。知らないことを学ぶときには、大きな流れをきちんと捉え、原理的なことをしっかり頭に叩き込んでおくと大きく間違えることはない。細かいことは必要に応じて原理の幹に枝や葉としてくっつけて覚えていけばいい、と。我々素人は、その大きな流れだけでも、ぼんやりとでもいいから理解しておけば、大きな間違いはしないで済むのかもしれない。
 
この本で大いに気に入ったのは、そういうところである。専門用語がたくさん出てくるので難しいように思えるけれど、それは論理的な難しさではないし、小学校高学年の気の利いた子だと理解できる程度のことがほとんどである、とちゃんと書いてある。それから、わからない言葉があったら、専門書を読むのではなく、まず、広辞苑にあたってみなさい、というのも、極めて正当で正しい指導だと思う。
 
これを読んだからと言って医学的に知識が突出するかと言われればそうではないが、少なくとも様々な病気に出会ったときに、いたずらに怖がることなく、ちゃんとドクターの説明を聞いて、必要な情報を得て、これからを考える姿勢をもつ、そのための土台くらいは作れたような気がする。

2018/7/10