子どもにかかわる仕事

子どもにかかわる仕事

2021年7月24日

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「子どもにかかわる仕事」汐見 稔幸 岩波ジュニア新書

中学の図書室で借りた本。図書ボランティアをやっていると、こういう特権があるから嬉しい。この本は、小児科医、助産師、保育士、教員、スクールソーシャルワーカー、カウンセラー、弁護士から、家裁の調査官まで、子どもにかかわる仕事をしている13人が自分の仕事について語っている。

編集にあたった汐見さんの前書きが、とてもいい。いいというか、この本のあり方を、しっかりと伝えている。

 子どもにかかわる仕事をしている人たちは、子どもたちのさまざまな〈いのち〉に触れながら仕事をします。そして、〈いのち〉の灯を上手にともし燃やしている子どもたちにたくさん出会います。そこで子どもたちから噴出する〈いのち〉をもらって元気になり、この仕事をしていてよかったと感じる人がいっぱいいます。
でも、この仕事をしている人の多くが、やがて、〈いのち〉の灯をうまく輝かせられないで、呻吟している子どもたちと出会います。誰もが、はじめは、その子たちの〈いのち〉の灯をこうすれば輝かせることができると思って、あれこれ働きかけます。でもあまりうまくいきません。
うまく行かない時、私たちおとなは、自分を反省しないで相手の子どもを責めたりすることがよくあるのですが、そうしても実際はうまくいくようになるわけではありません。
そこで立ち止まります。迷います。そして気が付きます。この子たちは自分で自分の〈いのち〉の輝かせ方を本当は知っているのだ。でも、そのことを自覚していなかったり、表現の仕方を知らなかったり、尻込みしていたりしているだけなのだと。
こう気がついたら、それまでと異なった展開が始まります。この子は神様から試練を与えられ、苦闘しながら、自分で自分の〈いのち〉の輝かせ方を見出したのだ。私たちは、その子が〈いのち〉を輝かせるのをただ応援すればよいだけなのだ、ということがわかってくるのです。
〈中略〉

仕事によってそうした発見の仕方や中身はみな違います。違いますが、子どもに謙虚になったということ、子どもに感動したということは、みな同じように書いているのです。

本当に、誰もが、なんの打ち合わせもなく、みな、子どもから学んだということ、子どもに与えられている、ということを語っている。子どものために仕事をしてやっていると思っていたのが、実は子どもから様々なものを与えられ、それを受け取っていると気づいたと、誰もが言う。

私のようなただのおばちゃんでさえ、わが子を育て、周囲の子どもたちと関わり、若い人達と交流する中で、同じ体験をしている。おとなが、おとなぶって子どもを指導しているつもりだったのに、いつの間にか、教えられ、与えられ、癒されて、勇気をもらう。子どもには、そういう力が、最初から備わっているのだと、私たちは、こんな年になって、気がつくのだ。

子どもってすごい。私は心からそう思う。なんの取り柄もなく、みなからバカにされ、自分なんて価値のない存在だと思い込んで、自信をなくし、自分を嫌いになり、貶めてしまう子どもに出会うたび、違うんだよ、と私は言いたくなる。針の先でつついたほどの大きさだったあなたが、命を吹き込まれ、ぐんぐんと大きくなり、お母さんから生み出されてここまで大きくなった。それだけで、それはものすごく価値のある、立派なことなんだ。あなたは、いのちの塊で、あなたが生きていることは、素晴らしいことなんだ、と知って欲しくなる。

それから、こうも思う。そういう私も、こんなおばちゃんの私も、遠い昔は、そんな子どもだった。力のあふれる、素晴らしい子どもだった。ただ生きているだけで、周囲のおとなにたくさんのものを与え、勇気付ける力を持っていたはずだ、と。私は、私の価値に気づいていなかった。気づかないままに、おとなになってしまった。だけど、子どもだった私は、また、価値あるおとなでもあり続けられるかもしれない。なぜなら、子どもだったことがあるから。

あたり前のことなのかもしれない。けれど、私はそう思うと、ものすごく力が湧いてくるのだ。生きていること、いのちを持っていること、育っていくということ。そういう価値をしっかりと理解し、捉え、自分を認め、受け入れて生きていくことを、私は大事にしたい。子どもは、そういうことを、教えてくれる。

子どもとかかわるということは、生きるということ、いのちがどんなに大事で価値あるものかということを教えられることだ。この本には、それが書かれている。

2012/2/27