私は逃げない

私は逃げない

2021年7月24日

「私は逃げない ある女性弁護士のイスラム革命」シリン・エバディ 武田ランダムハウスジャパン

パルティオのお友だちからご紹介いただいた本です。作者は、2003年にノーベル平和賞を受賞したイランの女性弁護士。石井光太さんの「神の棄てた裸体」を昨年末に読んで以来、イスラム圏の女性、子どもが気になっていたわたしですが、この本を読んで、愕然としてしまいました。

イランでは、女性もかなり高学歴の人が多いです。にもかかわらず、仕事に付くことは、とても困難です。作者も、イランで初めて判事になったのに、ホメイニのイスラム革命以後、女性であると言う理由だけで職を失います。ですが、女性や子どもの権利を守るために弁護士として働き、次第にその名声が世界に響くようになったのです。

イスラム法典において、女性は男性の半分の価値しか認められていません。そこから、恐ろしいことが起こります。二人の男たちからレイプされ殺された少女の裁判において、男たちが処刑されると、少女の命の価値1ポイントに対し、二人の男達の命の価値4ポイントとの差額3ポイント分の金額から処刑の経費を差し引いた金額が、なんと被害者遺族に請求される!!!これを、ブラッドマネーというそうです。こんな理不尽が堂々とまかり通る裁判って、何なんでしょう。そして、被害者を弁護した作者は、イスラム法典を批判したとして、激しい非難にさらされるのです。

イスラム法典の矛盾を論理的に突く作者は、投獄もされます。自分が暗殺リストに載っている事を、事件の資料を読んでいて発見もします。知人の多くが海外に逃げ、あるいは投獄され、暗殺され、あらゆる困難に会いながら、イランを出ようとはしない作者。自分の国に留まって、より良い状況を作り出そうとする意思に打たれます。国を愛するって、何なんでしょうね。国の体制それ自体がそんなひどい状態で・・。

この本をアメリカで出版するのは、多大な困難があったそうです。アメリカから通商禁止国に指定されているイランの書籍を輸入することは法的に禁止されており、もし作者がこの本を出版するのに、アメリカのエージェントや出版社の助けを借りると、彼らが法に触れ、逮捕される危険性もありました。作者は米国財務省を相手取って訴訟を起こし、2004年、財務省は通商禁止国の市民による著作の出版に関する規制を改定するに至ったといいます。

私達ができることは、世界中のあらゆる場所で、子供達、女性達、弱い立場の人々がどんな状況にあるかに関心を持ち続け、知ろうとし続けることなのかもしれません。

2008/1/10