こころの病に挑んだ知の巨人

こころの病に挑んだ知の巨人

2021年7月24日

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「こころの病に挑んだ知の巨人」山竹伸二 ちくま新書

 

日本において優れた精神病理論、治療論を展開し、実践した人たちの中から、五人(森田正馬、土居健郎、河合隼雄、木村敏、中井久夫)が選ばれている。彼らが西欧の精神医学や心理療法を取り入れながら、どのように日本人にあった治療法や理論を打ち立てたかを追い、かつ、それらに対する著者の意見を述べた本である。
 
五人の知の巨人の理論を、わかりやすくざっと説明し、その後に作者なりのまとめが書かれている。薄い新書内に五人であるから、本当にざっとではあるのだが、それでも非常に興味深い内容である。人の心をどう捉えるかは、学者、治療者本人そのものを問われることでもあるとつくづく思う。人は、結局の所、自分の心しか本当にはわからないので、どうしても自分と向き合うところからしか出発できないのだ。
 
病んでしまった心をどのように治療していくか、はそれぞれに違った理論が展開されている。が、その根底には、人に対する真っ直ぐな心、嫌な面、暗い面も逃げずに見据える勇気が共通して存在する。精神療法とは、嘘をついては決して出来ないものであると思えてならない。
 
本当の自分と向き合う勇気なしに、人の心を治すことはできない。ということを、精神科医はどのように考えているのだろう。そういった精神科医や心理療法士は、本当にはどのくらいいるのだろう。なんて考えてしまった私である。

2018/3/18