つぼみ

つぼみ

2021年7月24日

181

「つぼみ」宮下奈都 光文社

「スコーレNo.4」と登場人物が重なっている短編がいくつか入っている。が、別にそれを知らなくても、すいすい読める。静かで穏やかで繊細な世界。

六篇の短編が集まっている。黙っておとなしくしているだけなのに、心の中には、それはもう、たくさんの色々なものが渦巻いているような、そんな女の子がどれにも登場する。わかる。わかるけど、もう私がなくしてしまったような繊細さ、初々しさ、傷つきやすさ。

この世とあの世の境目がはっきりしないような「なつかしいひと」がいい。本って、困っていたり、寂しかったりする人を、こうやって助ける。これを読むことで、心が落ち着く、そんな本を教えてくれる人がいると幸せだ。

話は少し飛ぶけれど、先日、学生時代の友人と話し込んだ。彼女も私も本にまみれた少女時代だった。あれは、本に逃げていたんだね、と彼女が言った。現実が辛かったから、本さえ読めば幸せだったから。私も、本を浴びるほど読むことで、自分ではない他人の人生を、呆れるほど大量に生きる経験ができたから、だから、自分の位置を相対化できたんだと思う。二人とも、本に助けられて生きてきた。

少女時代の初々しさ、若くみずみずしい心と体、これから如何様にもなっていける先のわからなさ。それは、とても貴重で価値のあるもので、そんなすごいものを持っていたはずのあの時代、なんで私達はあんなに自信がなかったのだろう。不安だったのだろう。みんな、そうだったのだけれど。

最後の短編「ヒロミの旦那のやさおとこ」がいい。ドラというあだ名の、のっしのっしと歩く、豪快で正直で繊細な女の子のキャラが、とてもいい。そして、こういう女の子を真っ直ぐに好きになった、やさおとこの旦那もなかなかいいじゃないか。

みんな、幸せになれるといい。なんて、突拍子もない事を、突然願いたくなるような、そんな本だった。

2018/3/20