スコーレNo.4

スコーレNo.4

2021年7月24日

119

「スコーレNo.4」宮下奈都 光文社

 

夫が「中年オヤジが読むにはこっ恥ずかしい話だった。だって、中学生の初恋から始まる女の子の恋愛話なんだよ。」ですと。それでも、恥ずかしさを乗り越えて読み果せた夫よ、お疲れ様。
 
中学、高校、大学、そして社会人になってからの恋愛の物語。とりわけ中学の初恋の話にはイラついたなあ。夫は恥ずかしかったそうだが、私はこの無自覚感や、妹に対するコンプレックスにやたらイライラした。いや、思春期ってそういうものだから。そういう思春期にイラついちゃう私って、何。
 
思い返せば、ひと目見ただけで心を奪われて、その人が好きで好きでならない、なんて経験、私は中学時代、いや、高校時代にもない。周囲の男子がみんな子供っぽくしか見えなくて、自分ひとり大人のつもりだった。今思うと、逆に、私だけ恋愛に奥手だったのかもね。テレビの中のジュリーには夢中になったんだけど。自分に経験がないから、イラついちゃうのだろうか。誰かを好きになるって、自分の中の大事な部分がいきなりむき出しになっちゃうみたいな事件で、それができないほど、私は鎧を着込んでいたのかもしれない。・・・なんて思いながら読んだのは、やっぱりこの作品に力があるということなんだろう。
 
主人公は、本当はすごくたくさんのものを持っている子だと思う。お勉強も出来るし、きちんとしつけられたお嬢さんで、物の真価を見定める正しい目も持っている。どうやら容姿だってそれなりにかわいいみたいだし、センスもよろしい。だのに、自分に自信がないし、妹にコンプレックスを持っている。そして、他者に期待しない。
 
そんな彼女が、4つの恋愛を経て、大人になっていく物語。妹との関係も微妙に変化していって、最後にはまた和合に至るのだけれど。
 
私の感じるイラつきは、中学生のエピソード以降はやや薄れたが、結局のところ、最後までついて回った。なんだろう、このイラつきは・・・たぶん、彼女の自信の無さに対するものなのだと思う。
 
こんなになんでも持っているのに。ちゃんと力があって、それを発揮もして、人からも認め得られ、愛されもしているのに。それで何が不満なの。と、私はどこかで思っているのかもしれない。
 
登場人物に、悪人はいない。行き違いがあったり、嫌な思いをすることもあるけれど、あからさまな悪意は登場しない。そして、彼女の好きになる人は、ものすごくいい人だ。かっこいいとか完全無欠というわけではないけれど、思いやりがあって、気持ちをわかってくれて、怖がらせないで、まるで少女漫画のヒーローみたいだ。
 
穏やかな暖かさに守られて、繊細な優等生が自分を確かめていく、みたいな話にいらつく私は悪い中年だなあ・・・と少し思う。少しだけね。いや、こういう心情はわかるんだよね。もしかすると、わかりすぎるからイラつくのかも。今や図太いおばちゃんになってしまった自分に気づかせられるからなのかも。
 
でも、本当にそうなのかなあ・・・などと、ずっと考え直してしまう。そんな風に心を揺るがすだけの力がある作品なのだとは思うよ。思春期にこれを読む子たちは、一体何を感じるのだろうなあ。

2017/11/13