赤へ

赤へ

2021年7月24日

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「赤へ」井上荒野 祥伝社

狙ったわけでもなく、ただ、予約していた本が来た順に読んでいるだけなのに、「さざなみのよる」についで「死」をモチーフにした小説を読んでしまった。

十の短編が収められているが、どれも「死」に関わる物語である。ここから壮大な物語が始まるのではないか、と思われるような背景が暗喩された物語から、現実に井上荒野の母親が亡くなったときのことらしいエッセイめいたものまで。最後の短編は、女子中学生の自死の話なのだが、その子の級友の母の気持ちが身に迫って、ぞくっとしてしまった。

嫌なもの、見たくないものからは、人間は目を背けるし、忘れようとするし、関わるのを避けようとするものだ。だけど、逃げたところで、どうしようもない。いつまでも心に引っかかって、しくしくと痛み続けるくらいなら、その問題と直面して、対峙して、傷つくなら一気にばさっと傷ついてしまったほうがいい。というか、傷つくことでしか、それを乗り越えることはできないのだ。だから、怖くても、逃げてはいけないのだ、と思う。

なんてことを、最後に考えてしまった。

2018/12/10