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「静かな雨」宮下奈都 文藝春秋
「つぼみ」以来の宮下奈都。でも、これは実はデビュー作なんだって。短いので、あっという間に読める。
他者との関わりがとても薄い男女の出会いとその後の事件、そしてその乗り越え方の物語。静かにゆっくりと理解し合う二人は、名前を知るのにも、それまでどんなふうに生きてきたのかを伝え合うのにも、時間がかかる。それよりも、日々を二人で過ごすだけで、ときが過ぎてしまう。
何でも喋りたい、何でも分かりたい、何でも伝えたいとすぐに思ってしまう私とは全く逆の二人だなあ、と思う。心のなかではいろいろなことを思っても、それを言葉にするまでに、すごく時間がかかるし、伝えることで何か失うことをものすごく恐れている。
そんなに怖がって、傷つきやすいのは、どこかで何かがあったから?何かどうしても乗り越えられないような傷があるから?何をそんなに怖がっているの?
と思ってしまう、私は、がさつで無理解で図々しいおばさんなんだろうか。このみずみずしい感性をすごい、と思いながらも、自分とは違うものを感じて、ごめんよ、と言いたくなる私である。
2019/7/25