BOY少年

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2021年7月24日

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「BOY 少年」ロアルド・ダール ハヤカワ文庫

 

夫が「面白いよ」と言ったので、読んでみた。
 
ロアルド・ダールって、「え?そんなに?」と思うほど、大人を痛めつけるというか、きっちり激しく仕返しをする物語が多い。私は大人になってからロアルド・ダールに出会ったので、どうしても彼にやっつけられる側に立ってしまう。それで、少々怖がっていたのだ。
 
だが、これをよんで、なるほど、と思った。1920年台のイギリスの学校って、こんなだったの?と驚いてしまう。教師や寮母や寮監は、恐ろしいほどの体罰を平然と子どもに与えている。
 
ダールが八歳の時、いけ好かない駄菓子屋にいたずらを仕掛けたあと、仲間とともにむち打ちの罰を受けた時のことが5ページにわたって描かれている。その一部を抜粋する。
 
最初の一撃がお尻に当たってピストルのような音が鳴りひびいたとき、わたしの体ははじかれたように前方に投げだされた。カーペットに手をついていなかったら、たぶん顔から床につんのめっていただろう。実際は床に掌をついてかろうじてバランスを保つことができた。最初はピシっという音が聞こえただけで全然なにも感じなかったが、何分の一秒後かに灼けるような痛みがお尻全体に拡がり、あまりの痛さに息が止まった。わたしは肺の中の空気を全部しぼりだすような喘ぎ声を発した。まるでだれかに灼熱した火掻棒をお尻に強く押しあてられたような感じだった。
 二度目は最初よりなおひどかった。多分ミスター・クームズも慣れてきて、狙いが正確だったせいだろう。最初の一撃が当った細長い鞭の跡からほとんどずらさずに、二度目の鞭を振りおろしたらしかった。鞭が肌を打つだけでも充分痛いのだから、それがみみずばれを直撃する痛さときたら信じられないほどだった。
 三度目は二度目よりもさらにきつかった。(中略)
 四回目の鞭が振りおろされるころは、背中側のそこらじゅうに火がついたような感じだった。
(引用は「少年」ロアルド・ダールより)
 
このことを知ったダールの母は、彼を夏休み後に寄宿制の学校に転校させる。だが、その学校にも体罰はあった。お尻が血だらけになると、黙ってタオルとスポンジを渡し、部屋を出るよう促すような過酷な体罰を与えた教師は、のちに大主教となってエリザベス女王の戴冠式を行った人物だという。
 
こんな少年時代を送ったら、鞭打ったやつを許せないよなー、大人に仕返しもしたいよなー、としみじみ思ってしまった。それでダールくんは物語の中で、意地悪な大人をこっぴどくやっつけ続けたのだ。
 
イギリス人って、紳士然としていて、サディスティックなところもあるのね。小さな子供に鞭打つことが正しいなんて教育を受けているからこそ、あんなに植民地で横暴な振る舞いができたのね。と、思ってしまった私。
 
だからといって、彼の少年時代は恐ろしいことばかりじゃなくて、楽しいこともたくさんあった。毎夏家族で行くノルウェイ旅行や、姉の婚約者へのいたずらや、学校でのスポーツ、写真撮影など、楽しい思い出も語られている。何より文体は常にユーモアに溢れているので、恐ろしい体験も、どこかで笑わずにはいられないものになっている。ロアルド・ダールってすごい、と改めて思う。
 
この本は、学校を卒業して東アフリカで生活し始めるまでの話で、その後、彼は飛行士となり、作家となっていくのだけれど、その話は続巻にあるらしい。続巻も予約した?と夫に尋ねたら、先に続巻の方は読んじゃってたんだ、そして、そっちのほうがさらに面白かった、とのこと。おお、読まねば。

2014/9/24