だれも知らない小さな国

2021年7月24日

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「だれも知らない小さな国」佐藤暁 コロボックル書房(復刻版)

 

次回の図書館の読書会のテーマは佐藤さとるである。2月にお亡くなりになったのを受けての追悼読書会だ。我が家には2013年刊行の復刻版「だれも知らない小さな国」がある。今回はそれを読んだ。
 
「だれも知らない小さな国」は、子供の頃から数えると相当の回数、読んでいる。が、驚いたことに詳細は殆ど忘れていた。復刻版なので少しかすれた活字体がずらずら並んで挿絵もない。それがかえって新鮮だったのか。それとも単なる物忘れの結果か。
 
細かいことを忘れていたおかげで、こんなに面白いお話だったのか!と改めて感心した。時々目の前をしゅっと横切る小さな黒い影とか、耳元にいる小さな人とか、ちょっとしたイメージは懐かしいものなのだが、小さな山の風景や小川のせせらぎなどが初めて見る景色のように新鮮に浮かび上がってきた。おチビさんの赤いズック靴が色鮮やかに見えた。山を自分のものにするということの意味合いは、大人になったからこそ分かる部分もあった。自分ひとりの秘密の場所を持ち、誰にも教えない。みんなで遊んでいても、その場所のことを思い出すとドキドキする。そんな気持ちを思い出して、まるで子どものようにわくわくしてしまった。
 
夫が趣味の集まりで知り合った人と児童文学作家の岡田淳の話で盛り上がったという。我が家の子供達は岡田淳のファンで、サインをしてもらい、一緒に写真を撮ったこともある。という自慢話をしたら、心底羨ましがってくれたという。そんな大人に会うのは初めてかも。その人は今頃アーサー・ランサムに出会ってわくわくしながら読んでいるという。それなら佐藤さとるの「だれも知らない小さな国」も楽しめるかもよ、と教えてあげたのだそうだ。大人になってからランサムやコロボックルたちに出会えるなんて、これから新たに読める本がそんなにあるなんて、ある意味羨ましい、と私たち夫婦は話し合った。
 
すっかり忘れていたけれど、読み返せばコロボックルたちの国は全然古びていなくて、現在でもいきいきと楽しめる場所だ。今の子どもたちはどれくらいこの本を読んでいるのだろう。自分だけの秘密、自分だけの世界を持つことの豊かさを、この本はいきいきと教えてくれる。転校生だった私は孤独だったけれど、自分ひとりの中にも広くて楽しい豊かな場所があることを知っていた。それがどれだけ私を勇気づけてくれたことだろう。
 
この復刻版にはクヌギノヒコが書いたという「葡萄屋敷文書の謎」という短編が添えられている。ウィリアム・アダムスやスウィフトが登場する歴史的な物語であった。

2017/5/12