小山三ひとり語り

小山三ひとり語り

2021年7月24日

77

「小山三ひとり語り」中村小山三 演劇出版社

中村小山三は93歳の歌舞伎女形役者である。先代の中村勘三郎が、「オレが死んだら小山三を棺桶に入れてくれ」と言ったほど中村屋に尽くし続けた人だ。先代亡き後は、十八代目勘三郎を支え、勘太郎、七之助を教え育てた。一時体調を崩し入院されていたので、このままどうかなってしまうかと思ったが、無事に復帰、並み居る名役者たちが楽屋に次々に訪れて喜んでくれたという。

歌舞伎の世界は血筋がモノを言う。役者の血筋ではなかった小山三は、大役者が亡くなったら自分が次に大役をもらえるかと思っていたが、いつまでも脇を固めていることに気づく。そして、自分の生きる道は後見である、とある時思い定めるのである。

後見とは、大きな役の後ろに控え、小道具を渡したり、衣装替えを手伝ったり、あらゆる雑用、後ろ盾を引き受ける仕事だ。たとえば、扇子を二つ持って踊る役者がいる。最初は同じ扇子でしか無いのだが、毎日踊っているうちに癖がつき、左右が違ってくる。それを瞬時に見抜き、何の印もない扇子を、左右過たずに渡すのが後見の仕事である。

小山三の思い出話は先代の勘三郎が中心となる。戦前からの歌舞伎の話を聞いていると、まるで高尚なもののように扱われている歌舞伎が実は庶民の大きな楽しみだったことが伝わってくる。亡くなった勘三郎は、偉そうになってしまった歌舞伎を、誰もが楽しめるものに戻そうと尽力した人だったが、それは身近に小山三という人がいたからこそだったのかもしれない。

小山三は今でも中村屋の大事な宝である。舞台にも出る。勘九郎の息子、七緒八の初舞台にはどうしても立つのだと言っている。どうかいつまでも長生きして、中村屋を支えていただきたい。

2014/9/3