読書で離婚を考えた。

2021年7月24日

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「読書で離婚を考えた。」円城塔+田辺青蛙 幻冬舎

 

これは、夫婦がお互いを理解するために本を勧めあった格闘の軌跡である。
 
円城塔も、田辺青蛙も、私は一冊も読んだことがない。この二人が夫婦だということも知らないし、そもそも読んだことがないのでそれを知ったところで何の感情の変化もなかった。
 
それはともかく。読書傾向が大きく違う夫婦が、互いに本を勧め合うWEB連載企画をまとめたのがこの本である。この夫婦、互いに読書家ではあるが、あまりに好みが違いすぎて、本を勧めあっても、互いに絶対読もうとしない。この企画では、相手に読ませたい本を指定し、指定された課題図書についてのエッセイを書いて、次の課題図書を指定するのを繰り返すこととなった。細則として、自分で読んだ本しか指定してはいけないとか、紙の本に限るとか、家庭内で相談は無しとか色々ある。テーマは、「夫婦の相互理解」。
 
我が家も夫婦で微妙に読書傾向は違っていて、でも、重なり合う部分も多々あるし、普段は読まないジャンルでも、夫のおすすめで読んだら目がさめるように面白かった、ということもよくあるので、そういう意味ではこの夫婦とはちょっと違う。面白かったのは、本当にこの夫婦は全く好みが重なり合っていないのだが、それが、我々夫婦ともまた全く重なり合っておらず、登場する課題図書が、ほとんどが読んだことのない本ばかりだった。年間三百冊ずつ読み合う本好き同士が一冊も重ならないということだってある、と円城塔は言い切っていたが、本当にそういうことだってありそうな気がする。
 
円城塔はかなり頭でっかちで、理屈だけで出来上がった人で、一方、田辺青蛙は本人が自覚しているかどうかはともかく、かなり大雑把でいい加減で、人の話を聞かない、覚えない。最初に決めたルールもすぐに忘れる。結果としてこの企画は、円城塔にとってはかなり辛いものとなったようだ。周囲の人びとからは、この企画のせいで夫婦仲が悪くなっていないか、離婚しないか、とかなり心配されたらしい。円城塔は、連載が終わってホッとしたと書いている。が、田辺青蛙は、全然そんなことは感じていなかったらしく、また他の夫婦企画もやりたい、などと言い放って円城塔を唖然とさせている。その夫婦のすれ違いと言うか、見解の違いがまた読んでいて面白くもあるのだが、ハラハラもするなあ。
 
余談だが、先日、自分とは真逆の人に憧れて結婚したが、それが間違いだったと最近気づいた、と真顔で言う83歳に会った。生きているうちに気づけてよかったね、と言うべきか、言わざるべきか、かなり迷うところだよなあ。
 
馴染みのない本の題名だらけの中に、荻原規子の「薄紅天女」が入っていた。外国で知り合いに会ったような感覚であった。

2017/10/14