エヴリシング・フロウズ

エヴリシング・フロウズ

2021年7月24日

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「エヴリシング・フロウズ」津村記久子 文藝春秋

津村記久子はいいなあ。その中でも、この本は、実にいい。

「ウエストウイング」にちらっと出てきて、なかなか魅力的だったヒロシが主人公だ。あの時小学生だった彼は、ここでは中学3年生だ。おお、大きくなったなあ。

中三のクラス発表から、卒業までの一年間。ヒロシを中心に、クラスメイト数人とその周辺の人々の姿が描かれる。一人ひとりが、ちゃんとその人らしく悩んだり困ったり楽しんだりしている。すごく困ってしまうことも、たくさん出てくるし、どうしようもないことも出てきて、不安にもなる。でも、ここにいる中学生は、結構たくましい。そして、あんまり大人に頼らないで、自分たちで自分たちなりの解決を目指す。そりゃ、大人の手もたまに借りるけどさ。

彼らには彼らの世界があって、理屈があって、やり方がある。それはそれで、とても力のある、重要なものだ。だから、それを軽んじてはいけないのだな、と読んでいてつくづくと思う。中三なんてガキだよな、と思っちゃいけない。ちゃんと考えてるし、ちゃんと苦しんでるし、ちゃんと分かっている。

こいつら、とても大人っぽい、と最初は思ったけど、そういうわけでもないのだな。中学生なりの中学生ではあるのだけれど、そういう彼らを、作者がちゃんと大事に尊重して信頼しているんだと感じられる。それが、なんとも心地いい。

いい物語だった。みんな、頑張れよ、と思う。人と人とがちゃんと関わりあって、助けあって生きていくって、すごくいい。

2014/12/5